公開日 2026年10月23日
「オウンドメディアは、ここ10年ほどで広まった新しいWeb施策で、もう流行は過ぎた」。2014年ごろに企業の記事型メディアの開設が相次ぎ、その後に閉鎖の話も続いたため、一過性のブームとして記憶している人が多いはずです。
しかし、企業が自前の読み物で顧客とつながる営みは、19世紀末にはすでに始まっていました。字遊堂はこれまで、企業のオウンドメディアに載せる記事と、年に一度の取材で積み上げる社史の制作に携わってきました。記事と社史の両方を書く中で見えてきたのは、流行とともに消えたのが記事の数を積み上げる運用で、百年単位で続いてきたのは、その会社にしか書けない一次情報を載せたメディアだという違いです。
本記事では、オウンドメディアという言葉の成り立ちから、日本での流行と停滞、AI検索が広がった今の役割まで、記事と社史をつくる制作会社の視点で順を追ってお伝えします。
オウンドメディアとは
オウンドメディアとは、企業が自社で持ち、発信する内容を自社で決められるメディアのことです。英語の「Owned Media」をカタカナにした言葉で、広告枠を買う「ペイドメディア」、SNSや報道で第三者が取り上げる「アーンドメディア」と並べて使われてきました。
オウンドメディアという言葉は、指す範囲によって広い意味と狭い意味に分かれます。
| セル | 広い意味 | 狭い意味 |
|---|---|---|
| 指す範囲 | 公式サイト・パンフレット・広報誌・SNSの公式アカウントなど、自社が管理する媒体すべて | 企業が運営する記事中心のWebサイト(企業ブログ・Webマガジン) |
| 主な使われ方 | マーケティングの理論や媒体の分類 | 集客や採用の実務 |
実務で「オウンドメディアを始める」と言うときは、ほぼ狭い意味です。本記事では、紙の時代の広報誌を含む広い意味から歴史をたどり、Webの時代に入ってからは企業ブログやWebマガジンに絞ってお伝えします。
オウンドメディアの歴史を分ける5つの時代
オウンドメディアの歴史は、紙の広報誌から始まり、Webサイト、呼び名の誕生、流行、信頼の重視へと移ってきた5つの時代に分けられます。言葉が生まれたのは2009年から2010年にかけてでも、中身にあたる営みは100年以上前からありました。
| 時代 | おおよその時期 | 主な媒体 | 起きたこと |
|---|---|---|---|
| 紙の広報誌の時代 | 19世紀末〜1990年代 | 顧客向けの雑誌・PR誌 | 商品の外側にある役立つ情報で顧客とつながる |
| 企業サイトとブログの時代 | 1990年代後半〜2000年代 | 公式サイト・企業ブログ | 自社の情報をWebで直接出せるようになる |
| トリプルメディア提唱の時代 | 2009〜2010年 | 媒体の分類 | オウンドメディアという呼び名が定着する |
| コンテンツ量産の時代 | 2014年ごろ〜2016年 | 記事型のWebメディア | 開設が相次ぎ、量を追う運用が広がる |
| 信頼と一次情報の時代 | 2017年ごろ〜現在 | 専門性のある記事 | 誰がどんな経験に基づいて書いたかが問われる |
紙の広報誌の時代
企業が自前の読み物で顧客とつながる試みは、19世紀末のアメリカで始まりました。農機具メーカーのジョンディアは1895年に農家向けの雑誌『The Furrow』を創刊し、自社製品の宣伝よりも農業の技術や経営の話題を載せています。『The Furrow』は形を変えながら、今も発行が続いています。
1900年には、フランスのタイヤメーカーであるミシュランが、給油所の場所やタイヤの修理方法、レストランや宿の情報をまとめたガイドブックをドライバーに無料で配りました。車で遠出する人が増えれば、タイヤの需要も増えるという発想です。日本でも、資生堂が1924年に『資生堂月報』を出し、1937年からは『花椿』として美容や暮らしの文化を伝えてきました。
紙の広報誌は、商品を売り込む代わりに顧客の役に立つ読み物を出し続け、自社を選んでもらう関係をつくっていました。オウンドメディアの考え方の原型は、紙の時代にすでにできていたと言えるでしょう。
企業サイトとブログの時代
1990年代後半から、企業は自社のWebサイトを持ち、広告や印刷物を通さずに情報を直接出せるようになりました。ただし当時の企業サイトは、会社案内や製品カタログをWebに載せ替えたものが中心でした。読者が読み物を求めて通う場所ではなかったのです。
2000年代に入ると、ブログの仕組みが広がり、専門の知識が無くても記事を更新できるようになります。社長ブログやスタッフブログを始める企業が増え、日々の記事を積み重ねて読者と接点を持つ形が生まれました。とはいえ多くは担当者の日記に近く、集客や採用の成果と結び付けて運営する発想はまだ広まっていなかった、と見ています。
トリプルメディア提唱の時代
「オウンドメディア」という呼び名が広まったのは、2009年から2010年にかけてです。アメリカでは2009年に、企業が使うメディアをペイド・オウンド・アーンドの3つに分ける考え方が示され、調査会社のフォレスター・リサーチもブログで定義を示しました。日本では2010年2月に、日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会が「トリプルメディア」を掲げた宣言を発表しています。
トリプルメディアの考え方が広まると、広告や広報の担当者は、自社サイトやブログを広告の受け皿ではなく、広告やSNSと役割を分け合うメディアとして計画するようになりました。
| 種類 | 何か | 主な役割 |
|---|---|---|
| ペイドメディア | 費用を払って使う広告枠 | 短い期間で多くの人に知らせる |
| オウンドメディア | 自社が持つサイトや媒体 | 詳しい情報をためて、顧客との関係を深める |
| アーンドメディア | SNSの投稿や報道など第三者の発信 | 評判や信頼を広げる |
コンテンツ量産の時代
日本でオウンドメディアの開設が相次いだのは、2014年ごろからです。2012年に始まったサイボウズの「サイボウズ式」のように、働き方や組織の話題で読者を集める企業メディアが注目を集めました。BtoBでもBtoCでも、記事型のWebメディアを持つことが一つの流行になっていきます。
流行が広がると、検索で上位に出やすいキーワードを選び、記事を大量に外注して公開する運用が目立つようになりました。2016年末には、医療や健康の情報を扱うキュレーションサイト(他のサイトの情報をまとめて記事にするサイト)で、根拠の不確かな記事や他サイトからの無断転用が問題になります。運営企業は計10サイトを相次いで非公開にし、量を追う運用の危うさが広く知られるきっかけになりました。
信頼と一次情報の時代
2017年以降は、誰が、どんな経験に基づいて書いたかが問われる時代に入りました。Googleは2017年12月、日本で医療や健康に関する検索結果の品質を改善したと発表しています。2022年12月には検索品質の評価基準に「経験」を加え、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)という考え方を示しました。
同じ時期に、SafariやFirefoxがサードパーティCookie(広告配信のために他社のサイトが利用者を追跡する仕組み)を標準で制限し、広告だけで見込み客を追いかけることが難しくなりました。Chromeは2025年4月に廃止の方針を撤回し、利用者の設定に任せる形を続けています。ブラウザごとに追跡できる範囲が違う中で、自社サイトで読者と直接関係を持てるオウンドメディアが改めて見直されてきました。2024年8月には日本のGoogle検索にもAIによる概要が表示されるようになり、記事の役割はさらに変わりつつあります。
日本でオウンドメディアが広がった3つの理由
日本でオウンドメディアが広がったのは、広告が届きにくくなり、記事が読者に届く道が増え、自社で記事を出す道具がそろうという3つの変化が、同じ時期に重なったからです。
広告が読み飛ばされるようになったから
スマートフォンが普及すると、SNSやニュースアプリを開くたびに広告が目に入るようになりました。見慣れた広告は読み飛ばされ、広告を表示させない機能を使う人も出てきます。比較や検討の段階にいる人ほど、売り手の宣伝より中立に見える情報を探すものです。
企業にとっては、広告で知らせるより先に、読者が自分から探している疑問に答える記事を用意する必要が出てきました。広告で呼び込む集客から、探されたときに見つけてもらう集客へと、考え方の重心が移ったと見ています。
検索とSNSで記事が届く道ができたから
Google検索で疑問を調べる習慣が定着し、答えになる記事を書けば、広告費をかけなくても読者が訪れる道ができました。加えてFacebookやTwitter(現在のX)で記事が共有されるようになり、1本の記事が検索とSNSの両方から読まれます。
広告は出稿をやめると表示も止まりますが、記事は公開している限り読まれ続けます。費用がかかり続ける広告に対して、記事は資産として残るという説明は、経営層に予算を通すときの根拠としてもよく使われてきました。
自社で記事を出せる道具がそろったから
WordPressなどのCMS(専門知識が無くても記事を公開・更新できる管理システム)が広まり、オウンドメディアを始める費用と手間が下がりました。社内に専門の部署が無い企業でも始められるようになったのは、次の3つがそろったためです。
- 記事を自社で公開・更新できるCMS
- 記事制作を請け負うライターや制作会社
- 訪問者数や流入元を測るアクセス解析ツール
始めやすくなった反面、目的を決めないまま開設し、半年ほどで更新が止まるメディアも増えました。始める壁の低さは、閉鎖の多さにもつながっています。
オウンドメディアが終わったという誤解
オウンドメディアそのものが終わったわけではなく、終わったのは検索流入だけを目当てに記事の数を積み上げる運用です。「オワコン」と言われる背景には、2017年に医療・健康分野の評価が見直されるなど、検索評価の変化で量産型の記事が読まれにくくなり、目的を決めずに始めたメディアの閉鎖が続いたことがあります。
| セル | 終わった運用 | 続いている運用 |
|---|---|---|
| 記事の題材 | 検索数の多いキーワード | 自社の現場や顧客の声から出てくる疑問 |
| 書き方 | 取材をせず、手元の情報だけで書く | 社内の担当者や専門家に取材して書く |
| 成果の測り方 | 訪問者数 | 問い合わせ・採用応募・商談での活用 |
| 記事の扱い | 公開したら終わり | 情報が古くなれば書き直す |
閉鎖に至るメディアでは、訪問者数は増えたのに問い合わせにつながらず、予算の理由を説明できなくなる流れが多いと見ています。ただ、訪問者数が伸びないメディアがすべて失敗とは限りません。営業担当者が商談の前に記事を送ったり、採用面接の前に応募者が読んだりと、少ない訪問者数で成果を出している企業メディアもあります。
長く続く企業メディアに共通する3つの条件
1895年の『The Furrow』から今の企業ブログまでを見比べると、長く続く企業メディアには、一次情報・読者の用事・続く体制という3つの条件がそろっています。社史と記事の両方を手がけてきた立場から見ると、3つの条件は会社の記録を残す仕組みとも重なります。
自社にしか書けない一次情報を載せること
一次情報とは、自社の現場で見聞きしたことや、顧客とのやり取りから得た事実のことです。ほかのサイトの情報をまとめ直した記事は、同じ題材の記事が増えるほど埋もれていきます。現場の担当者が実際に判断した理由や、失敗して手順を変えた経緯は、その会社の記事にしか書けません。
『The Furrow』が農家に読まれ続けてきたのも、農家と日々向き合う農機具メーカーだからこそ得られた知識を載せてきたからだと考えられます。時代ごとに媒体が紙からWebへ移っても、一次情報が読まれる理由は変わっていません。
売り込みより読者の用事を先に置くこと
ミシュランのガイドは、タイヤの性能ではなく、ドライバーが旅先で困る宿や整備工場の情報を載せました。読者が記事を開くのは、自分の用事を片付けたいからです。製品の紹介から書き始めた記事は、読者の用事に答える前に閉じられてしまいます。
自社の商品やサービスに触れるのは、読者の疑問に答えた後で十分でしょう。疑問への答えが自社の商品につながる題材を選んでおけば、売り込みの文を足さなくても、問い合わせにつながる記事になります。
担当者が替わっても書き続けられること
更新が止まった企業メディアの事情を聞くと、記事の質よりも、担当者の異動や退職がきっかけになっている例が目立ちます。誰に向けて何を書くかを決めた編集方針と、取材先や題材の一覧を残しておけば、担当者が替わっても次の人が同じ水準で書き続けられます。担当者が替わっても続くかは、次の3つで確かめられます。
- 誰に向けて何を書くかの編集方針が文書になっている
- 取材先と次に書く題材の一覧がある
- 記事ごとに見直す時期を決めている
社内で書き手を確保できないときは、取材と執筆を外部に任せ、社内は題材の選定と内容の確認に絞る分担もあります。決まった時期の取材で記録を積み上げる仕組みは、社史づくりでも同じです。字遊堂の「1年社史」も、年に一度の取材で1年分ずつページを増やし、担当者が替わっても会社の歩みを記録し続けられる形にしています。
AI検索時代のオウンドメディアの役割
AI検索が広がった今、オウンドメディアの役割は、検索結果から読者を集める場所から、AIや読者が引用する元の情報を置いておく場所へと広がっています。Google検索のAIによる概要や対話型のAIは、複数のサイトの情報をまとめて答えを示します。用語の説明のように要約で済む記事は、クリックされにくくなりました。
一方で、AIがまとめる答えの元になるのは、どこかのサイトに書かれた情報です。具体的な手順や、現場で判断した理由を書いた記事は、AIの答えの中で出典として示されることがあります。
| セル | クリックされにくくなる記事 | 引用元として残る記事 |
|---|---|---|
| 中身 | 用語の定義や一般論の言い換え | 自社の経験や取材に基づく事実 |
| 書き方 | 結論が段落の奥にある | 見出しのすぐ下に答えを書く |
| 情報の時点 | 公開したまま更新しない | 時点を書き、変われば書き直す |
AI検索の時代に求められているのは、『The Furrow』の時代から変わらない、その会社にしか書けない情報です。 変わったのは届け方で、AIや読者が答えを見つけやすいよう、答えを見出しのすぐ下に書き、情報の時点を示す書き方が求められていると見ています。
よくある質問
オウンドメディアという言葉はいつから使われた?
オウンドメディアという言葉が広く使われ始めたのは、2009年から2010年ごろです。2009年にアメリカでペイド・オウンド・アーンドの3分類が示され、日本では2010年にWeb広告研究会がトリプルメディアを掲げたことで、広告や広報の業界に定着しました。2014年ごろに企業の記事型メディアが増えてからは、企業ブログやWebマガジンを指す言葉として一般にも知られるようになっています。
会社のホームページもオウンドメディア?
会社のホームページも、広い意味ではオウンドメディアに入ります。自社が持ち、載せる内容を自社で決められるからです。ただ、実務で「オウンドメディアを立ち上げる」と言う場合は、会社案内を載せる公式サイトとは別に、読者の疑問に答える記事を積み重ねるサイトや記事の一覧ページを指すのが一般的です。
今から始めても遅くない?
オウンドメディアは今から始めても遅くありません。量で検索上位を取り合う運用は難しくなりましたが、自社の経験に基づく記事は、検索でもAIの答えの中でも、ほかの会社が代わりに書けないからです。ただし、記事で何を得たいかの目的と、更新を続ける体制を決めないまま始めると、更新が止まりやすくなります。始める前に、月に何本を誰が書くかまで決めておくと、続けられるかを判断できるでしょう。
まとめ|一次情報を積み上げる運用が残る歴史
オウンドメディアの歴史は、1895年の顧客向け雑誌から始まり、2009年から2010年にかけて呼び名が定着し、2014年ごろの流行と量産の反省を経て、経験と一次情報が問われる今に至ります。流行とともに消えたのは量を追う運用で、その会社にしか書けない情報を読者の用事に合わせて届けるメディアは、紙の時代から形を変えて続いてきました。
字遊堂は、企業のオウンドメディアに載せる記事を、担当者や現場への取材をもとに書いてきました。年に一度の取材で会社の歩みを残す「1年社史」も手がけ、記事と記録の両方で、その会社にしか書けない情報を形にしています。
- 現場への取材をもとにしたオウンドメディア記事の制作
- 更新が止まったメディアの記事の書き直し
- 1年ずつページを増やしていく「1年社史」の制作
自社の現場にある話を記事にしたい方や、止まったメディアを取材から立て直したい方は、字遊堂の問い合わせフォームから、今の運用の状況をお聞かせください。社内のどこに書ける話が眠っているかを、取材の段取りと合わせてご提案します。

