公開日 2026年10月13日
「本を出すなら、自分がいちばん詳しい分野をテーマにすればいい」。周りから「専門家なのだから本が書けるでしょう」と勧められ、肩書きや得意分野からテーマを考え始める人が多いはずです。
しかし、字遊堂はこれまで電子書籍や社史の制作で、多くの経営者や専門家に取材を重ねてきました。その現場で繰り返し目にしてきたのは、詳しい分野をそのままテーマにした企画ほど、目次が書けずに止まってしまう流れです。書籍のテーマは得意分野から選ぶものではなく、届けたい読者・読者の悩み・著者だけが持つ材料の3つが重なる一点に絞って決めるものだと考えています。
本記事では、テーマを決める3つの項目から5つの手順、避けたいテーマ、出版の形による違いまで、取材を通じて原稿を形にしてきた制作会社の視点で順を追ってお伝えします。
書籍のテーマを決める3つの項目
書籍のテーマは、届けたい読者・読者が抱える悩み・著者だけが持つ材料の3つの項目が重なったところで決まります。どの項目から考え始めてもかまいませんが、3つ目まで埋まらないうちは、テーマとしてまだ固まっていません。
| 項目 | 答える問い |
|---|---|
| 届けたい読者 | 誰が読むのか |
| 読者が抱える悩み | その人は何に困っているのか |
| 著者だけが持つ材料 | なぜ自分がその答えを書けるのか |
届けたい読者
届けたい読者は、年代や職業といった属性ではなく、いま置かれている状況で決めます。「経営者向け」と決めても、創業1年目の経営者と事業承継を控えた二代目では、知りたいことがまるで違うからです。
読者の状況が決まると、本に書かなくてよい内容も見えてきます。創業1年目の経営者に向けた本なら、組織が大きくなってからの評価制度の話は削れるでしょう。テーマを絞る作業の大半は、書かない内容を決める作業だと見ています。
読者が抱える悩み
読者が抱える悩みは、読者が人に相談するときの言葉の形で書き出します。「集客を学びたい」は目的であって、悩みとは言えません。「チラシを配っても問い合わせが月に1件も来ない」まで具体的になると、本が答えるべき問いがはっきりします。
悩みが具体的なほど、読者は書店や通販サイトで書名を見たとき、自分のための本だと気づきます。広い読者に届けたい場合も、悩みは1つに絞ります。同じ悩みを抱える人が多いテーマほど既刊も多いため、著者だけが持つ材料と組み合わせると、売れる企画に近づくはずです。
著者だけが持つ材料
著者だけが持つ材料とは、仕事や暮らしの中で積み重ねた経験・失敗・独自の手順のうち、ほかの人が書いても同じにならないものを指します。同じ悩みに答える本がすでに並んでいても、材料が違えば別の本として読まれます。
裏を返せば、読者と悩みがどれだけ明確でも、材料の無いテーマでは著者が書く理由を説明できません。出版社に企画を出す場合も自費で出す場合も、「なぜこの人が書くのか」に答えられるかが、テーマを決める最後の条件になります。
テーマを決める5つの手順
書籍のテーマは、出版の目的の整理から目次案での検証まで、5つの手順で決めると迷いが減ります。手順の順番を入れ替えると、目的に合わない読者を選んでしまい、後から企画を組み直すことになりかねません。
出版の目的の整理
出版の目的は、テーマの広さを決める最初の条件です。集客や採用のために出す本なら、読者は見込み客や応募者に絞ってよく、書店で広く売れる必要はありません。
一方で、印税を得たい、書店に並べたいという目的なら、出版社が売れると判断できる広さの読者が必要になります。目的が2つ以上あるときは、優先する1つを先に決めておきましょう。読者を選ぶ次の手順で、判断がぶれにくくなるためです。
読者1人の設定
読者の設定では、届けたい読者をさらに1人の人物まで絞り込みます。「30代の会社員」では広すぎるため、「入社3年目で初めて後輩の指導を任され、教え方が分からずにいる営業職」のように、その人が置かれた場面まで書き込みます。
書き込んだ読者の場面は、紙に書いて執筆中も手元に置いておくと役立ちます。章を書きながら「この人はこの説明を必要としているか」と照らし合わせると、話が横道にそれたときにすぐ気づけるからです。
書ける材料の棚卸し
材料の棚卸しでは、読者の悩みに答えられる自分の経験を、使えるかどうかを判断せずに書き出します。顧客に何度も説明してきたこと、やり方を変えるきっかけになった失敗、社内で使っている手順書やチェックリストは、どれも本の材料になります。
書き出した材料のうち、読者の悩みに直接答えるものが章を5つほど立てられる量になれば、テーマを支えられます。足りないときは、読者の悩みを少し広げるか、材料が多い別の悩みに読者を合わせ直すのが近道です。
テーマ文の作成
テーマ文は、読者・悩み・著者の材料の3つの項目を1文にまとめたものです。最後に読み終えた後の読者の変化を加えると、本の着地点まで決まります。書き込む内容と例は次のとおりです。
| 入れるもの | 例 |
|---|---|
| 読者 | 初めて後輩を指導する営業職の |
| 悩み | 教え方が分からない悩みを |
| 著者の材料 | 新人研修を長く続けてきた著者の手順で解き |
| 読後の変化 | 次の同行営業から使える指導に変える本 |
テーマ文が1文にまとまらないときは、どれかの項目が2つ以上の答えを抱えています。読者が2人いる、悩みが2つあるといった状態なら、片方を削ってから次の手順に進みます。
目次案での検証
テーマ文ができたら、目次案を書いてテーマの太さを確かめます。必要な章の数は本の厚さで変わりますが、一般的なビジネス書の厚さなら、章のタイトルを5〜7本、各章の項目を3〜5本ずつ書き出せるかが目安になるでしょう。電子書籍で2〜3万字ほどの短い本にするなら、章は3〜4本でも足ります。
章が3本ほどで尽きるなら、テーマが狭すぎるか、材料が足りていません。反対に、章ごとに想定する読者が入れ替わる目次になったときは、テーマが広すぎる状態です。どちらの場合も、テーマ文の読者か悩みを書き直してから、目次案を作り直します。
強みを人に聞き出してもらう方法
自分の強みが見えないときは、人に質問してもらって話した内容を録音し、書き起こすと材料が見つかります。著者は長く続けてきた判断ほど当たり前だと感じて、自分からは書き出さないためです。
とりわけ見落とされがちなのが、「なぜそうしているのか」という理由の部分です。手順は自分で書けても、その手順を選んだ理由は聞かれて初めて言葉になることが多くあります。読者が本にお金を払う価値は、手順よりもその理由の側にあると見ています。
聞き手には、次のような質問を渡しておきます。
- お客様や部下から何度も同じことを聞かれるのは、どんな場面か
- 同業者と違うやり方をしているのはどこで、なぜそうしているのか
- 始めたばかりの頃にした失敗と、その後に変えたこと
- 新人に教えるとき、必ず伝えていること
答えに対して聞き手が「なぜ」をもう1回重ねると、手順の裏にある判断が出てきます。聞き手は同僚や家族でも務まりますが、話がそれたときにテーマへ引き戻す役は、取材に慣れた書き手に頼むと進みが早くなるでしょう。
避けたい3つのテーマ
書籍のテーマで避けたいのは、読者が広すぎるテーマ、読者が狭すぎるテーマ、無料の情報で足りるテーマの3つです。どれも書き始めることはできますが、書店で広く売る本にするなら、企画書の段階か出版後の売れ行きで行き詰まります。
読者が広すぎるテーマ
読者が広すぎるテーマは、目次に入れたい項目が増え続け、どの読者にとっても浅い本になります。書店には同じ範囲を扱う教科書がすでに並んでいるため、比べられたときに選ばれる理由も作りにくくなるのです。
広いテーマは、読者と悩みを足して絞り込むと企画に変わります。
| 広いテーマ | 絞ったテーマ |
|---|---|
| マーケティングの基本 | 従業員10人以下の工務店がチラシで問い合わせを増やす方法 |
| 健康的な食事 | 夜勤のある看護師が疲れを残さないための食事の組み立て方 |
読者が狭すぎるテーマ
自分の半生をたどる自伝や、会社の歩みを年表どおりに並べた本は、著者を知らない読者が手に取る理由を持ちません。商業出版の企画として出すと、読者層が狭いという理由で通りにくくなります。
ただし、半生や社歴そのものが題材に向かないわけではありません。社員や取引先に会社の考え方を伝える社史のように、出版の目的が記録や社内向けなら、読者が狭くても本として成り立ちます。広く売りたい場合は、半生の中から同じ立場の人がそのまま使える判断を抜き出し、抜き出した判断を軸に章を組むと、著者を知らない人にも読む理由が生まれます。
無料の情報で足りるテーマ
Webで検索すれば手順が分かるテーマは、読者がお金を払って本を買う理由になりません。ソフトの操作方法や制度の概要だけをまとめた本は、情報が更新されるたびに中身が古くなる弱さも抱えます。
本として読まれるのは、手順の裏にある判断や、失敗してから方法を変えた経緯、自分の現場で再現できるまで細かくした手順です。同じテーマでも、検索で出てくる情報に著者の経験を重ねる切り口にすると、手元に置いておきたい本になると見ています。
出版の形で変わるテーマの選び方
テーマの選び方は、商業出版・企業出版や自費出版・電子書籍のどれで出すかによって、求められる読者の広さが変わります。費用を誰が出すかによって、テーマを判断する人が変わるためです。
| 出版の形 | 費用を出す人 | テーマで重視されること | 読者の広さ |
|---|---|---|---|
| 商業出版 | 出版社 | 書店で売れる見込み | 広い必要がある |
| 企業出版・自費出版 | 著者や会社 | 出版の目的との一致 | 狭くてもよい |
| 電子書籍の個人出版 | 原則かからない(外注する場合は著者) | 1つの悩みへの答えの具体性 | 狭くてよい |
商業出版では、出版社の編集者がテーマを判断し、多くの読者がお金を払う価値があるかを問われます。企業出版や自費出版は著者側が費用を負担するので、テーマが出版の目的に合っていれば、読者が狭くても成り立ちます。
電子書籍には、AmazonのKindleダイレクト・パブリッシングのように費用をかけずに出版できるサービスがあり、狭い悩みに絞ったテーマを試しやすい形式です。出版後も、誤字の修正や一部の加筆なら原稿を差し替えられます。ただ、Kindleダイレクト・パブリッシングでは、変更がページ数の1割を超えるような大きな改稿は新しい版として出し直す扱いになります。テーマを磨き直すときは、2冊目の企画として考えると進めやすくなります。
よくある質問
テーマ候補が複数あるときはどれを選ぶ?
テーマ候補が複数あるときは、目次案をいちばん具体的に書けるものを選びます。書きたい気持ちが強い候補でも、章の中身が出てこないなら、材料が足りていません。
選ばなかった候補は捨てる必要がなく、2冊目の企画として残しておけます。1冊目で読者がついてから2冊目を出すと、同じ読者に続けて届けやすくなるでしょう。
小説のテーマも同じ決め方でいい?
小説のテーマは、実用書と同じ手順で決めなくてもかまいません。小説では、テーマを先に決めず、人物や場面を書き進めるうちにテーマが見えてくる書き方もあるからです。
ただ、応募する新人賞や掲載先が決まっているなら、読者を決める手順は役に立ちます。読む人の年代や好むジャンルが分かると、題材の選び方や場面の書き方を合わせやすくなります。
書きながらテーマを変えてもいい?
書きながらテーマを変えても、問題はありません。ただ、読者を変えると目次を組み直すことになります。変えるのは切り口や章の順番に留め、読者は最初に決めた1人のままにすると、手戻りが少なく済みます。
商業出版で企画が通った後にテーマを変えるときは、出版社と合意した企画書と内容がずれてしまいます。書き進める前に、担当の編集者へ相談しておきましょう。
まとめ|読者と強みが重なる一点を選ぶ決め方
書籍のテーマは、得意分野をそのまま書名にするのではなく、届けたい読者・読者の悩み・著者だけが持つ材料の3つが重なる一点を選ぶことで決まります。目的の整理から目次案での検証まで手順を踏めば、書き始める前にテーマの太さを確かめられます。
- 読者を、状況と悩みまで書ける1人に決めたか
- 読者・悩み・材料・読後の変化を、テーマ文として1文で書けるか
- 目次案で、章ごとに想定する読者が入れ替わっていないか
字遊堂は、電子書籍や社史の制作で、経営者や専門家の話を取材で伺い、原稿の形に整えてきました。話したいことは山ほどあるのにテーマ文が1文にまとまらない段階でも、候補をそのままお話しいただければ、質問を重ねながら読者と材料が重なる一点を一緒に探していきます。

