公開日 2026年10月10日
「書籍を書くなら、まず文章力を鍛えないといけない」。ビジネス書1冊の原稿が10万字前後になると聞くと、ブログ何十本分もの量を前にして、書く技術の不足を心配する人が多いはずです。
しかし、これまで多くの経営者や専門家に取材し、電子書籍や社史などの長い原稿を書き起こしてきた字遊堂は、執筆が止まる原因を文章力より目次の詰めの甘さに見ています。書籍の執筆は、書き始める前に作る目次でほぼ決まります。文章を磨くのは、目次を固めてからでも遅くありません。
本記事では、書籍を出す方法と執筆の流れから、目次の作り方、原稿を書き進めるコツまで、取材して書く制作会社の視点で順を追ってお伝えします。
書籍の執筆から出版までの流れ
書籍の執筆は、企画書と目次を作り、本文を書き、編集者の指摘と校正で直すという順に進みます。商業出版では、出版社の企画会議を通ってから本文に取りかかるのが一般的です。
| 工程 | 中身 |
|---|---|
| 1. 企画書 | 誰に向けて何を書く本かと、仮の目次をまとめる |
| 2. 企画会議 | 編集者が企画を社内の会議にかけ、出すかどうかを決める |
| 3. 本文の執筆 | 目次に沿って原稿を書く |
| 4. 編集者の確認 | 構成や表現への指摘を受けて原稿を直す |
| 5. 校正 | ゲラ(紙面の形に組んだ試し刷り)に修正を書き込む |
| 6. 入稿と刊行 | 出版社が印刷所に原稿を渡し、本が書店に並ぶ |
本文の量は、ビジネス書や実用書で8万〜10万字ほどが目安です。判型(本の大きさ)や図表の多さでも、必要な字数は変わります。企画が通ってから書店に並ぶまでは、半年から1年ほどを見ておくと計画を立てやすいでしょう。
とりわけ見落とされがちなのが、書き終えた後の校正にかかる時間です。校正は初校と再校の2回が基本で、三校まで進む本もあります。本業と並行して書く人は、出版社から指定される確認期間を早めに聞き、予定に入れておきましょう。
書籍を出す4つの方法
書籍を出す方法は、商業出版・自費出版・電子出版・企業出版の4つで、方法ごとに費用を負担する人と本を出す目的が違います。
| 方法 | 費用の負担 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 商業出版 | 出版社 | 出版社が売れると判断する企画を持つ人 |
| 自費出版 | 著者 | 内容や装丁を自分の判断で決めたい人 |
| 電子出版 | 著者(ほとんどかからない) | まず1冊を形にしたい人 |
| 企業出版 | 企業 | 会社の考え方を顧客や採用候補者に伝えたい企業 |
出版社が費用を持つ商業出版
商業出版は、出版社が編集から印刷、流通までの費用を負担し、著者が印税を受け取る方法です。印税は刷った部数か売れた部数に応じて計算され、率は5〜10%程度が一般的です。費用を出版社が持つ分、企画が通るのは採算が取れると出版社が判断した場合に限られます。
企画の入り口は、編集者への企画書の持ち込みや出版社の公募、知人からの紹介が中心です。SNSや連載ですでに読者を持つ人には、編集者から執筆の依頼が届くこともあります。契約によっては売れ残りの費用を著者が負担する場合もあるため、出版契約書の費用負担の条項は必ず読みましょう。
著者が費用を持つ自費出版
自費出版は、著者が制作費を払い、内容や装丁を自分で決めて本を作る方法です。費用は1000部で100万円前後からが目安で、部数や装丁、書店流通の有無によっては数百万円以上かかります。
見積もりを比べるときは、印刷部数、書店流通の有無、在庫の扱いの3点をそろえましょう。3点の条件が違うまま総額だけを比べても、どこで差が出ているのかは見えません。
個人でも出しやすい電子出版
電子出版は、Amazonの「Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)」などを使い、電子書籍として販売する方法です。印刷が無いため出版の費用はほとんどかからず、原稿と表紙の画像があれば個人でも出せます。
一方で、編集者の確認も書店での露出も無いため、原稿の質を保つ作業と読者に知らせる作業は著者が担わなければなりません。KDPでは注文に応じて紙の本を印刷する仕組みも使えるので、電子書籍から始めて紙の本を加える人もいます。
企業が費用を出す企業出版
企業出版は、企業が費用を負担し、経営者の考え方や自社の技術を1冊にまとめる方法です。商談で渡す資料や採用活動での会社紹介に使うことを目的にする点が、ほかの3つと違います。
社史も企業出版の一つの形で、創業からの歩みを社員や取引先に伝える本です。経営者が自分で書く時間を取りにくいため、取材をもとにライターが原稿を書く進め方もよく取られます。
執筆前に決める3つのこと
書籍の執筆に入る前に決めるのは、想定する読者、一冊で答える問い、手元にある材料の量の3つです。3つが曖昧なまま書き始めると、10万字の途中で何を書く本だったのかを見失います。
想定する読者
想定する読者は、「30代の会社員」のような属性ではなく、どんな場面で何に困っている人かまで絞るのが基本です。たとえば「初めて部下を持ち、1対1の面談で何を話せばよいかわからない係長」と決めると、入れる話と外す話を迷わず選べます。
読者を広く取るほど、どの章にも初心者向けの説明と経験者向けの話が混ざり、どちらの読者にとっても、自分に関係のない章が混ざる本になってしまうのです。
一冊で答える問い
一冊で答える問いとは、読者が本を読み終えたときに解けている疑問を1文で書いたものです。「部下との面談で話すことを、毎回どう決めるか」のように問いの形にしておくと、各章が問いのどの部分に答えるかを確かめられます。
問いを1文で書けないときは、2冊分のテーマを1冊に詰め込もうとしているサインと考えてよいでしょう。テーマを2つに分け、片方を次の本に回すと、1冊目の目次は組みやすくなります。
手元にある材料の量
材料とは、自分の経験談、仕事で使っている手順、顧客から受けた質問など、本文に書ける中身のことです。10万字は、3000字のブログ記事に直すと30本分を超える量になります。書き始める前に、次の3つに当てはまるかを確かめておきましょう。
- 読者から繰り返し受ける質問を10個以上書き出せる
- 失敗した経験と、失敗の後に変えた手順を話せる
- 一般論ではなく、自分の現場で起きた場面や数字を挙げられる
書き出せる質問が10個に届かないときは、ブログやSNSで発信して材料を集める期間を先に取ります。読者の反応がよかった話から章を立てれば、目次で迷う時間も減らせるはずです。
書籍の目次を作る手順
書籍の目次は、章を読者の疑問の順に並べ、項目ごとに字数を割り振り、書けない項目を洗い出すという3段階で作ります。目次が固まれば、本文は目次の項目を一つずつ埋める作業に変わるのです。
章立ての順番
章立ては、書き手が言いたい順ではなく、読者が次に知りたくなる順に並べます。部下との面談を扱う本なら、次の順に並べると、読者は前の章の答えを持ったまま次の章へ進めます。
- 面談がうまくいかない原因
- 面談の前に準備すること
- 面談の場で聞くこと
- 面談の後にすること
いちばん言いたい主張は第1章に置きたくなるものです。ただ、困りごとを自覚していない読者は主張を読んでも納得しにくく、困りごとを言葉にする章を先に置いたほうが主張は届きます。
項目ごとの字数配分
章の下に小見出しを並べたら、小見出しごとに書く字数の目安を決めておきましょう。10万字の本を6章で書くなら1章あたり1万7千字ほどで、小見出し1つを2000〜3000字にすると、1章に6〜8個並ぶ計算です。
字数を先に決めておくと、1つの項目だけが膨らんで章の釣り合いが崩れるのを防げます。日々の執筆の目標も、小見出しを単位に立てやすくなるはずです。
書けない項目の洗い出し
目次ができたら、小見出しを、今すぐ書ける項目と、調べたり人に聞いたりしないと書けない項目に分けます。書けない項目が多い章は、材料集めの予定を先に立てるか、項目そのものを外しましょう。
印を付けないまま書き始めると、書けない項目の章で手が止まり、調べものに何週間も取られかねません。目次の段階で印を付けておけば、取材や資料集めを執筆と並行して進められます。
原稿を書き進める3つのコツ
本文を書き進めるコツは、1日の執筆量を決めること、書きやすい章から始めること、推敲を後に回すことの3つです。どれも、書く気力ではなく段取りで量をこなすための工夫です。
1日の執筆量の決め方
1日の執筆量は、時間ではなく字数で決めるのがおすすめです。「毎日1時間書く」と決めると調べものだけで1時間が終わる日も出ますが、「毎日1500字書く」と決めれば進んだ量が目に見えます。
| 1日に書く字数 | 10万字に届くまでの日数 |
|---|---|
| 1000字 | 100日 |
| 1500字 | 約67日 |
| 2000字 | 50日 |
| 3000字 | 約34日 |
本業がある人は、平日は1000字、休日は3000字のように曜日で分けると続けやすいと感じています。書けない週があっても、翌週の目標を上げずにそのまま再開すれば、執筆の習慣は途切れません。
書きやすい章からの着手
本文は第1章から順に書く必要はありません。材料がそろっていて書きやすい章から始めると、最初の数週間で字数が積み上がり、続ける気持ちを保てます。
第1章と「はじめに」は、本全体の主張を読者に示す部分です。ほかの章を書き終えてから書くと、本文の中身と主張がずれずに済みます。
推敲を後に回す理由
推敲(書いた文章を読み直して直す作業)は、一冊の初稿を書き終えてから始めましょう。書きながら前の章を直し始めると、同じ章を何度も直すうちに先へ進めなくなるためです。
初稿を通して読み直すと、章と章の間で同じ話を繰り返している箇所や、説明が抜けている箇所が見つかります。表現の細かな直しは、編集者の指摘を受けた後でも間に合うはずです。
取材型の執筆という選択肢
話す材料はあるのに書く時間が取れない人には、ライターの取材に答える形で書籍を作る方法もあります。著者が話した内容をもとに、ブックライターと呼ばれる書き手が構成を考えて原稿にまとめる進め方で、ビジネス書では広く使われている方法です。
取材型の執筆では、著者の仕事は取材で話すことと、できた原稿を確かめて直すことに絞られます。合計10数時間ほどの取材を数回に分けて1冊分の話を集めることが多く、自分で書くより著者が使う時間は大きく減ります。
| 比べる点 | 自分で書く | 取材で作る |
|---|---|---|
| 著者の作業 | 構成から執筆、推敲まで | 取材で話し、原稿を確認する |
| 費用 | 原則かからない | ライターへの報酬がかかる |
| 文章の調子 | 著者自身の言葉 | ライターが著者の話し方に寄せて書く |
| 向いている人 | 書く時間を確保できる人 | 経験は豊富だが書く時間が無い人 |
取材で作る本が、自分で書く本より劣るとは限りません。ただ、話した内容が浅ければ原稿も浅くなり、話していないことはライターにも書けません。取材の前に、一冊で答える問いと章立ての案を著者とライターで共有しておくと、聞く話に漏れが出にくくなります。
話したい経験はあるのに原稿が進まない場合は、目次の案を持って字遊堂にご相談いただければ、取材で何を聞けば一冊分の原稿になるかを一緒に組み立てられます。
書籍の執筆で起きやすい失敗
書籍の執筆で起きやすい失敗は次の3つで、どれも書き始める前の段取りを飛ばしたことで起きます。
- 商業出版を目指すのに、原稿を書き上げてから出版社を探す
- ブログやSNSの過去の投稿を並べて1冊にする
- 書きながら目次を何度も組み替える
商業出版では、出版社は完成した原稿より企画書と目次で出すかどうかを決めます。書き上げた原稿があっても構成から直すよう求められることがあり、書いた時間の多くが無駄になりかねません。自費出版や電子出版なら、書き上げてから出し方を決めても問題はありません。
ブログの過去記事は1本ごとに完結するように書かれているため、並べると章のつながりが切れ、同じ前置きが何度も出てきます。過去記事は材料として扱い、目次に沿って書き直すのが近道です。
目次の組み替えは、書きながら新しい話を思いつくたびに起きがちです。組み替えるたびに書き終えた章の前後がずれるため、思いついた話はメモに残し、初稿を書き終えてから目次に入れるかを決めましょう。
よくある質問
書籍1冊の執筆にかかる期間はどれくらいか
書籍1冊の執筆にかかる期間は、本文の初稿だけで3か月から半年ほどが目安です。毎日書く時間を取れるか、材料がそろっているかで期間は変わり、調べ直す項目の多い本はさらに長くかかります。商業出版で刊行時期を決めるときは、初稿の後の編集者の確認と校正の期間を足して見積もりましょう。
一般人でも書籍を出版できるか
一般の人でも書籍を出版できます。電子出版や自費出版なら、出版社の審査を通さずに本を出せるのです。商業出版も、著名人でなくても読者の需要を見込める企画であれば通ることがあります。ただし、実績や発信の場を持たない人の企画は売れる見込みを編集者が判断しにくいため、企画書で想定する読者と一冊で答える問いをはっきり書く必要があります。
AIで書籍を執筆してもよいか
AIを書籍の執筆に使うこと自体は禁じられていません。ただ、AIが書いた文章には事実の誤りが混ざることがあり、著者自身の経験も入らないため、そのまま原稿にすると一般論の寄せ集めになります。AIは、目次案の比較や、話した内容を書き起こした文章の整理など、下準備に向いた道具です。KDPで出版する場合は、AIで生成した文章や画像を含むかどうかを出版時に申告する決まりがあります。自分で書いた文章をAIで校正や編集しただけなら申告は不要ですが、AIが生成した文章は後で大きく手を加えてもAI生成として扱われます。
まとめ|書籍の執筆を目次から始める考え方
書籍の執筆は、文章力を磨くより先に、読者と一冊で答える問いを決め、目次を固めるところから始まります。
- 書籍を出す方法は商業出版・自費出版・電子出版・企業出版の4つで、費用を負担する人が違う
- 執筆前に、想定する読者、一冊で答える問い、手元にある材料の量を決める
- 目次は読者の疑問の順に章を並べ、項目ごとに字数を割り振る
- 書く時間が取れない人は、取材に答えて本を作る方法も選べる
字遊堂はこれまで、取材をもとに電子書籍や社史など長い原稿を書き起こしてきました。目次の案がまとまらない段階でも、書く時間が取れずに企画が止まっている段階でも、取材で集めた話を章立てに組み直すところから字遊堂がお手伝いします。

