公開日 2026年10月04日
「インタビューで失敗するとしたら、当日に緊張して質問が出てこなくなる場面だろう」。人が目にするインタビューはテレビや動画で聞き手が言葉を交わす姿であり、準備や原稿にまとめる工程は表に出ないため、そう考えるのは自然なことです。
しかし、インタビューの失敗の多くは、当日の話術ではなく取材の前と後で生まれています。字遊堂はこれまで、採用記事や社史、企業の取材記事のために多くの方へインタビューを重ねてきました。その経験から見えてくるのは、当日の失敗に見えるものの多くが、取材前に決めるべきことを決めないまま臨んだ結果だという点です。
本記事では、インタビューの失敗例を準備と当日と原稿化の3段階に分け、原因と防ぎ方から失敗したときの立て直し方まで、取材記事をつくる制作会社の視点で順を追ってお伝えします。
インタビューの失敗を段階で分ける考え方
インタビューの失敗は、取材前の準備、取材中の進め方、取材後の原稿化という3つの段階に分けると、原因を特定しやすくなります。段階ごとに、起きやすい失敗と失敗に気づくタイミングを並べると次のとおりです。
| 段階 | 起きやすい失敗 | 失敗に気づくタイミング |
|---|---|---|
| 取材前の準備 | 記事の完成形が曖昧、下調べの不足、質問の詰め込みすぎ | 取材の当日 |
| 取材中の進め方 | 答えが一言で終わる、深掘りしない、時間が足りない、録音できていない | 取材の終盤から原稿化まで |
| 取材後の原稿化 | 具体例や数字が足りない、確認で発言が覆る | 原稿を書き始めてから掲載前まで |
表の右の列のとおり、失敗に気づくのは原因が生まれた段階より後になりがちです。準備で抜けたことは当日の沈黙として表に出て、当日に聞き漏らしたことは原稿を書く手が止まって初めて分かります。だからこそ、気づいた段階ではなく、原因が生まれた段階で手を打つ必要があります。
取材前の準備で起きる失敗
取材前の準備で起きる失敗は、記事の完成形が曖昧なこと、相手と掲載先の下調べ不足、質問の詰め込みすぎの3つです。どれも当日の聞き方をいくら工夫しても取り返しにくく、取材の日程が決まった時点で手を打つ必要があります。
記事の完成形が曖昧な取材
記事の完成形が曖昧なまま取材に臨むと、何を聞けば記事が書けるのかを判断できず、質問が場当たりになります。出発点は、読者が記事を読み終えたときにどんな状態になっていればよいかを、取材の前に1文で決めておくことです。
| 記事の種類 | 読者が読み終えたときの状態の例 |
|---|---|
| 採用記事 | 入社を迷う人が、自分の働く姿を思い描ける |
| 導入事例 | 同じ悩みを持つ企業が、導入後の変化を想像できる |
| 社内報 | 他部署の社員が、取材した人に声をかけるきっかけを持てる |
完成形が決まると、聞くべきことと聞かなくてよいことの線が引けます。たとえば採用記事で入社の決め手を聞くなら、決め手そのものより、決める前に迷った点や比べた他社の話が、入社を迷う読者に答える材料になるでしょう。
相手と掲載先の下調べ不足
相手の下調べが足りないと、すでに公開されている情報を当日にあらためて聞くことになり、限られた時間を基本情報の確認に使ってしまいます。経歴や事業内容のように会社のWebサイトや過去の記事で分かることは、事前に読んで質問から外しておきましょう。
とりわけ見落とされがちなのが、掲載先の文字数と写真の要否です。記事の長さに対して取材時間が足りなかったり、撮影の段取りを組んでいなかったりする失敗は、取材を依頼する時点で掲載先の条件を確かめていれば防げます。
質問リストの詰め込みすぎ
質問を多く用意すると安心できますが、1時間の取材に20問を並べれば1問あたり3分しかなく、どの答えも浅いまま終わります。核になる質問を5問ほどに絞り、残りは時間が余ったときの予備に回すのが現実的です。
話の長い相手なら核の質問をさらに減らし、短く答える相手なら予備の質問を早めに使うなど、相手の話す長さで数を調整しましょう。
取材中の進め方で起きる失敗
取材中の失敗が起きるのは、質問の形、話の掘り下げ方、聞き手のふるまい、時間の使い方、記録の5つの場面です。いずれも取材の場では気づきにくく、録音を聞き返したときや原稿を書くときに表に出ます。
答えが一言で終わる質問
答えが一言で終わる質問とは、「仕事は楽しいですか」のように、はいかいいえで答えられる質問のことです。「楽しいです」で答えが終わると、記事に使える材料はほとんど残りません。「仕事が楽しいと感じたのは、どんな場面でしたか」のように、場面や理由を聞く形に言い換えます。
ただし、すべての質問を言い換える必要はありません。入社した年や担当の部署のように事実を確かめる場面では、一言で答えられる質問を使うと、相手の負担を減らせます。
話を深掘りしない進行
用意した質問を順に消化することに気を取られると、相手が記事の核になりそうな話を始めても、次の質問へ進んでしまいます。答えの中に「大変でした」「工夫しました」のような抽象的な言葉が出てきた瞬間が、深掘りする合図です。
深掘りの質問は、「たとえばどんなことですか」「そのとき何をしましたか」「どのくらいの期間でしたか」の3種類を持っておくと、場面と行動と数字のどれかを引き出せます。
聞き手の話しすぎと誘導
聞き手が自分の経験や意見を長く話すと、相手が話す時間が減るうえに、相手は聞き手の考えに合わせた答えを返しやすくなります。「〜ということですよね」と聞き手が先に答えを言う誘導も同じで、記事には聞き手の言葉をなぞった発言しか残りません。
相手の言葉が止まったときは、すぐに次の質問で埋めず、数秒待ちましょう。沈黙のあとに、用意した質問では引き出せなかった話が出てくることがあります。
時間配分の崩れ
時間配分が崩れると、話が盛り上がって予定の時間を過ぎ、最後の重要な質問を聞けないまま終わります。反対に、質問が早く尽きて時間が余り、聞き手が焦る失敗も起こりがちです。
時間配分は、導入、核の質問、補足と確認の3つに分け、それぞれを終える時刻をメモに書いておくと崩れにくくなります。1時間の取材なら導入に5分、核の質問に40分、補足と確認に15分ほどが目安です。相手の話す速さや質問の数に応じて、核の質問の時間を伸び縮みさせます。
録音と機材のトラブル
録音ボタンの押し忘れやバッテリー切れ、保存の失敗は、取材の中身に関係なく記事の材料そのものを失う失敗です。押し忘れや電池切れ、容量不足、着信による中断は、取材の前に次の4点を確かめておけば防げます。
- 録音する機材やアプリを2台用意し、同時に回す
- 取材の前日に充電し、保存先の空き容量を確かめる
- 開始直後に数秒録って再生し、録れているかを確かめる
- スマートフォンで録音するときは機内モードにし、着信で録音が止まるのを防ぐ
機内モードの間は通信が止まるため、クラウドへ保存しながら録るタイプの録音アプリは使えません。録音に頼り切らず、数字や固有名詞はその場でメモにも残しておくと、録音が失われたときの手がかりになります。
原稿にして初めて分かる取材の失敗
原稿にして初めて分かる失敗とは、取材の場では手応えがあったのに、書き始めると使える材料が足りないと分かる状態のことです。取材記事を書いてきた立場から見ると、会話が盛り上がった取材ほど、持ち帰った材料の不足が起きやすいと感じています。盛り上がるほど聞き手も満足してしまい、深掘りの質問を忘れやすいためです。
具体例と数字が足りない取材メモ
録音を文字に起こしてみると、「やりがいがあります」「チームの雰囲気がいいです」のような言葉が並び、読者が場面を思い描ける話が見つからないことがあります。会話の場では相手の表情や声の調子が伝わるため、抽象的な言葉でも聞き手は分かった気になってしまうのです。
記事に残るのは言葉だけなので、取材中は相手の話を原稿に書ける形かどうかで聞き分ける必要があります。 原稿に書ける形とは、いつ誰が何をしたかが分かる場面か、比べられる数字がある話のことです。
| 相手の言葉 | 返す質問 | 原稿に書ける材料 |
|---|---|---|
| やりがいがあります | 最近やりがいを感じたのはどの仕事でしたか | 仕事の場面と、そのとき相手がしたこと |
| 雰囲気がいいです | 仕事で困ったとき、誰にどう相談しましたか | 相談した相手と、返ってきた言葉 |
| 成長できました | 入社した頃と比べて、任される仕事はどう変わりましたか | 入社時と今の仕事の違い |
取材の後半に、ここまでの話から原稿の見出しを頭の中で3つ立ててみると、材料が足りない箇所が見えてくるはずです。見出しの下に書く話がない項目だけを追加で聞けば、持ち帰ってから困ることを減らせます。
取材先の確認で覆る発言
企業の取材記事は掲載前に取材先の確認が入るため、取材の場で話した内容が確認の段階で「社外に出せない」「言い方を変えたい」と大きく直されることがあります。記事の中心にした話が使えなくなると、構成から組み直すことになりかねません。
確認で覆る発言を防ぐ第一歩は、取材の冒頭で記事の掲載先と公開範囲を伝えておくことです。取引先の名前や社内の数字のように公開の判断が要る話が出たら、その場で記事に書いてよいかを確かめます。話した本人のほかに広報や上長の確認が入るかどうかも、取材を依頼する段階で聞いておきましょう。
インタビューで失敗したときの立て直し方
インタビューで失敗したときの立て直し方は、失敗に気づいたのが取材中か取材後か、相手との関係が損なわれたかどうかで変わります。
取材中に気づいたときの軌道修正
取材中に話が記事の目的から外れていると気づいたら、相手の話をいったん受け止めてから、相手の話を起点に本題へ戻します。「そのお話を伺って、もう一つお聞きしたいことができました」と続ければ、話の流れを切らずに質問を変えられるはずです。いきなり「では次の質問です」と切り替えると、相手は話を遮られたと感じてしまうでしょう。
質問の意図が伝わっていないと気づいたときは、同じ質問を繰り返さず、時期や場面を絞って聞き直します。「入社して最初の1週間で言うと」のように範囲を狭めると、相手は思い出す場面を選びやすくなるのです。
取材後の追加質問の頼み方
原稿を書き始めて材料の不足に気づいたら、できるだけ早く追加の質問を頼みます。時間がたつほど相手の記憶が薄れ、頼みにくさも増すためです。メールで頼むときは、次の3点を書くと相手が答えやすくなります。
- 追加の答えを記事のどの部分に使うか
- 答えてほしい質問を2〜3問に絞ったもの
- 回答の期限と、電話で答えてもらってもよいかどうか
取材の終わりに「原稿を書く中で確かめたいことが出たら、メールでお聞きしてもよいですか」と了承を得ておけば、追加の質問も頼みやすいはずです。
相手の機嫌を損ねたときの対応
相手の表情が曇ったり、答えが急に短くなったりしたら、質問のどこかが相手の気に障ったか、相手が次の予定を気にしている可能性があります。時間が原因なら残りの質問を絞り、質問が原因だと思われるときは「失礼な聞き方をしてしまったかもしれません」と短く詫びて、質問の意図を説明し直しましょう。相手が答えたくない話題だと分かったときは、質問を取り下げ、記事でも触れないと伝えます。
取材後に気まずさが残った場合は、お礼のメールで当日の聞き方を詫び、原稿の確認では直したい箇所を遠慮なく伝えてほしいと添えておきます。
インタビューの失敗を防ぐ当日の進め方
インタビューの失敗を防ぐ当日の進め方は、次の5つの手順を毎回同じ順で踏むことです。手順を型にしておくと、緊張していても始め方と終わり方に抜けが出にくくなるはずです。
- 冒頭で、記事の掲載先と読者、所要時間、録音することを伝えて了承を得ます。
- 最初の質問は、入社した時期や担当している仕事のように、考えずに答えられる事実にします。
- 相槌は「なるほど」の繰り返しを避け、相手の言葉の一部を繰り返して返しましょう。
- 終わりの5分前に時間が近いことを伝え、「最後に、言い残したことはありませんか」と聞きます。
- 終了時に、原稿の確認の流れと、追加で質問するときの連絡方法を伝えます。
4番目の質問には、相手が取材中に言いそびれた話や、聞き手が思いつかなかった話題が返ってくることも珍しくありません。
よくある質問
初めてのインタビューで緊張したらどうするか
初めてのインタビューで緊張しても、質問の順番と時間配分を書いた紙が手元にあれば、取材は進められます。頭が真っ白になったときは紙に戻って次の質問を読めばよく、メモを見ながら聞くこと自体は失礼に当たりません。冒頭で「慣れていないので、メモを見ながらお聞きします」と伝えておくと、相手も構えずに話してくれるでしょう。
取材相手に原稿を見せる必要はあるか
企業の取材記事では、取材相手に原稿を見せて確認を受けるのが一般的です。発言の言い回しや数字の誤りを、掲載前に直せるためです。ただし、報道機関の記事では、取材相手に原稿を見せないことを原則にしている場合があります。自分が書く記事がどちらに当たるかは、掲載先の編集方針で確かめてください。
オンラインのインタビューで失敗しやすい点は何か
オンラインのインタビューで失敗しやすいのは、通信の遅れによる発言の重なりと、録画の設定漏れです。相手が話し終えてから一拍置いて話し始めると、発言が重なって聞き取れない箇所を減らせるはずです。録画は会議ツールの機能だけに頼らず、別の機材でも音声を録っておくと、設定漏れや保存の失敗に備えられます。録画する場合は、冒頭で相手の了承を得ておきましょう。
まとめ|インタビューの失敗を取材前に減らす準備
インタビューの失敗は準備と当日と原稿化の3段階で起きますが、当日に表れる失敗の多くは、記事の完成形や掲載先の条件を取材前に決めていなかったことに原因があります。取材の成否は、会話が盛り上がったかではなく、原稿に書ける場面と数字を持ち帰れたかで決まります。 次のインタビューの前に、少なくとも次の4点を済ませておきましょう。
- 読者が読み終えたときの状態を1文で書いた
- 掲載先の文字数と写真の要否を確かめた
- 核の質問を5問ほどに絞り、時間配分をメモに書いた
- 録音の機材を2台用意し、充電と空き容量を確かめた
字遊堂はこれまで、採用記事や社史、企業の取材記事の制作で、インタビューから原稿化までを手がけてきました。社内でインタビューを任されて質問の組み立てに迷っている段階でも、録音はあるのに原稿にまとまらない段階でも、字遊堂へご相談ください。取材の目的を一緒に1文に落とし込むところから、原稿の形に仕上げるまでお手伝いします。

