公開日 2026年10月03日
「AIにインタビューを任せれば、取材の手間はほとんどなくなりそう」。文字起こしや要約のツールを一度使うと、数時間かかっていた作業が数分で終わるため、聞き取りそのものもAIで済むと考えたくなるはずです。
しかし、取材記事や社史を数多く手がけてきた字遊堂の実感では、AIに任せて速くなる工程と、任せると記事の芯が抜けてしまう工程ははっきり分かれます。すべてをAIに預ける前に、使う工程を選んでおけば、手間を減らしながら記事の質も保てると見ています。
本記事では、AIインタビューの仕組みと3つの使い道から、メリットと苦手な場面、導入の手順まで、取材記事の作り手の視点で順を追ってお伝えします。
AIインタビューの仕組みを知る
AIインタビューとは、生成AIが聞き手となり、チャットや音声で相手に質問を投げかけて回答を集める手法です。回答の内容をAIがその場で読み取り、「先ほどの点を、もう少し具体的に教えてください」と追加の質問を重ねられる点が、従来のアンケートとの大きな違いといえます。なお、採用選考でAIが質問する「AI面接」を指して使われる場合もありますが、本記事では調査や取材の聞き手としてのAIを扱います。
従来のインタビューと比べる
人が行うインタビューは、1対1で1時間から1時間半ほど話を聞く形が一般的で、1日に会える人数には限りがあります。AIインタビューでは、あらかじめ決めた質問の流れ(シナリオ)に沿って、AIが多くの相手と同時に対話を進めます。回答は自動で文字になり、要点の整理まで一気に進むのです。
| 比べる点 | 人が聞くインタビュー | AIインタビュー |
|---|---|---|
| 一度に聞ける人数 | 1人ずつ | 多くの相手に同時 |
| 実施できる時間 | 聞き手の予定に合わせる | 24時間いつでも |
| 深掘りの柔軟さ | 表情や間に合わせて変えられる | シナリオの範囲内で行う |
| 記録と整理 | 文字起こしと要約に手間がかかる | 自動で進む |
注目される理由を押さえる
AIインタビューが広がった背景には、聞き手の不足があります。熟練者の退職で現場の知識が失われる、調査の担当者が足りずインタビューの数を増やせないといった悩みを抱える企業は多いでしょう。生成AIの会話の精度が上がり、「聞く人が足りない」という課題をAIで補えるようになったことが、注目の理由だと見ています。
AIインタビューの使い道は3つある
同じ「AIインタビュー」でも、誰に何を聞くかで使い方は大きく変わります。調査会社のサービスや大手企業の発表を見比べると、使い道はおおむね次の3つに整理できるのです。
| 使い道 | 主に聞く相手 | 得られるもの |
|---|---|---|
| 市場調査 | 顧客や生活者 | 商品やサービスへの本音と理由 |
| 暗黙知の聞き取り | 社内のベテラン | 判断のコツを言葉にした資料 |
| 記事制作 | 取材相手 | 文字起こしと原稿の下書き |
市場調査に使う
いちばん普及しているのが、商品開発やサービス改善のための市場調査です。AIがチャットや音声で質問を続け、「なぜその商品を選んだのか」「どこに不満を感じたのか」といった理由まで聞き出します。数十人から百人規模の声を短期間で集められるため、選択式のアンケートと、1対1でじっくり話を聞くデプスインタビューの中間に位置する手法と考えてよいでしょう。
暗黙知の聞き取りに使う
二つ目は、社内に眠る知識の聞き取りです。暗黙知とは、ベテランの勘やコツのように、本人もまだ言葉にしていない知識を指します。AIが「その判断の決め手は何でしたか」と掘り下げ、回答を整理して技能伝承の資料に変えていく使い方で、NTTデータが川崎重工業と取り組んだインタビューエージェントや、デロイト トーマツが開発を発表したAIインタビューエージェントなど、大手企業の取り組みも公表されています。
インタビュー記事の制作に使う
三つ目が、取材記事づくりへの活用です。こちらはAIが聞き手になるより、人が行った取材の録音を文字に起こし、質問ごとに整理して原稿の下書きを作る使い方が中心になっています。質問案の作成や見出しの候補出しもAIに頼めるため、記事制作の作業時間は大きく縮むでしょう。
AIインタビューのメリットを押さえる
AIインタビューを取り入れる利点は、大きく分けて次の3点です。
- 多くの相手に同時に話を聞ける。人が聞けば数週間かかる人数でも、AIなら並行して進められる
- 回答者が本音を話しやすいとされる。相手が人でないため、遠慮から答えを丸めることが減る
- 記録と整理の手間が減る。文字起こしや要約が自動で済み、担当者は回答を読み解く作業に時間を使える
3つに共通するのは、聞き手の時間という制約が外れる点です。これまで予算や人手の都合で「数人に聞いて終わり」にしていた調査でも、聞ける人数が増えれば、少数意見と多数派の傾向を見分けられるようになります。ただし、遠慮が減ることと、言葉にならない迷いまで拾えることは別の話です。速さと規模を得る代わりに手放すものもあるのです。
AIインタビューの弱点を理解する
便利な手法ですが、人の聞き手と同じ働きを期待すると、思わぬところでつまずきます。導入前に押さえておきたい弱点は、次の4つです。
| 苦手なこと | 起こりやすい問題 |
|---|---|
| 表情や声色を読む | 言い淀みや迷いを見落とし、表面的な答えで終わる |
| 想定外の話題に寄り道する | シナリオの外にある大事な話を聞き逃す |
| 回答の真偽を確かめる | 事実と違う回答も、そのまま整理されてしまう |
| 機密情報を扱う | ツールの設定によっては、入力した社内情報の管理に不安が残る |
このうち記事づくりで影響が大きいのは、最初の2つだと感じています。どちらも手順を工夫しただけでは消えないため、AIと人の役割分担で補うことになるでしょう。また、回答者にはAIが聞き手であることと回答の使い道を事前に伝え、了承を得てから始めてください。
AIインタビューの導入手順を確認する
ツール選びから始めると、集まった回答をどう使うのか決まらないまま、運用が止まりがちです。次の順で進めれば、つまずきを減らせるはずです。
- 目的と聞く相手を決める。顧客の声を集めるのか、社内の知識を残すのかで、選ぶサービスも質問の設計も変わる
- 質問のシナリオを作る。最初の質問と、深掘りしてほしい方向をAIに指示しておく
- 少人数で試す。社内の数人を相手に試し、分かりにくい質問や浅い深掘りを直す
- 本番を行い、回答を人が読み解く。AIの要約だけで判断せず、元の回答にも目を通す
- 結果を見て質問を改める。1回で完成させようとせず、回を重ねて精度を上げる
自社で行うか、調査会社やサービスに任せるかは、手順1の目的を基準にすると判断しやすくなります。社内の知識を残す目的なら自社で回しやすく、商品開発のための大規模な調査なら、回答者を集める仕組みを持つ外部サービスが向いていると見ています。
AIインタビューと人の役割を分ける
ここで、取材記事を作ってきた立場から本音を言えば、記事の読みどころになる発言は、用意した質問への答えより、その後の寄り道から出てくることが多いと感じています。例えば、予定していた質問を終えたあとに「ちなみに、いちばん迷ったのはどこでしたか」と尋ねると、相手が少し考えてから、準備していなかった話を始めることがあります。記事の核になる一言は、こうした場面で生まれやすいのです。
ここが、AIインタビューと人の取材を分ける境目です。
AIはシナリオに沿って深掘りできますが、相手の声の揺れや言い直しに気づいて、話の筋を変えることは苦手としています。ツールの機能比較ではほとんど語られない点ですが、とりわけ見落とされがちなのが、AIに要約や清書を指示したときに、話し手の言葉づかいがならされやすいという問題です。方言まじりの言い回しや、あえて言い切らなかった表現は、AIの整理を通ると標準的な文に置き換わりがちです。文としては整っても、読者が「この人の話をもっと聞きたい」と感じる手がかりが消えてしまいます。
質問案づくりと文字起こしはAIに任せ、聞く場面と最後の言葉選びは人が担うのが、手間と質を両立させる線引きです。
| 工程 | 担い手 | 理由 |
|---|---|---|
| 質問案の作成 | AI | 聞き漏れの確認に向いている |
| 取材当日の聞き取り | 人 | 予定外の深掘りが必要になる |
| 文字起こし | AI | 作業時間を大きく短縮できる |
| 構成案と下書き | AIと人 | 骨組みはAI、話の順序の判断は人 |
| 言葉選びと本人確認 | 人 | 話し手らしさと事実の確認が要る |
取材の場で話を引き出す工程を自社だけで担うのが難しい場合は、取材をもとにした記事づくりを専門とする字遊堂のような制作会社に、聞き手の役割を任せる方法もあります。
AI原稿は公開前に確認する
文字起こしから下書きまでをAIで作った場合でも、公開前の確認工程は省けません。生成AIは、話し手が言っていない内容を補ったり、数字や固有名詞を取り違えたりすることがあるからです。公開前には、少なくとも次の点を確かめましょう。
- 発言の趣旨が変わっていないか、録音と照らし合わせる
- 人名や社名、数字、日付に誤りがないか確かめる
- 話し手が言っていない内容が書き足されていないか確認する
- 話し手本人に原稿を見てもらい、掲載の了承を得る
もう一つ気をつけたいのが、否定的な発言の扱いです。AIに「前向きな表現に書き直して」と頼むと、苦労話や失敗談の具体的な中身まで消えてしまいます。失敗から立て直した経緯こそ読者が知りたい部分である場合も多いため、書き換えるかどうかは話し手と相談して決めるのが確実です。取材の録音や原稿をAIに入力する前には、社外秘の情報が含まれていないか、入力内容が学習に使われない設定になっているかも確かめておきましょう。
AIインタビューの疑問に答える
最後に、AIインタビューについて寄せられることの多い疑問に、短く答えます。
AIインタビューは無料で試せますか?
試せます。ChatGPTなどの対話型AIに「あなたはインタビュアーです。私の回答に合わせて、深掘りの質問を一つずつしてください」と指示すれば、簡易的なAIインタビューを体験できます。回答者を集める仕組みや分析の機能が必要な調査では、各社の有料サービスを比べることになるでしょう。
回答者はAI相手でも本音を話しますか?
話す人は多いと見ています。相手が人でない分、気を遣わずに不満や本音を書きやすいという面があるからです。ただし、AIが聞き手であることと回答の使い道を事前に説明しておくと、安心して答えてもらえます。
AIだけでインタビュー記事は書けますか?
書けますが、そのまま公開するのは避けましょう。下書きまではAIで作れても、事実の確認と話し手らしい言葉選び、本人の了承には人の手が欠かせません。取材記事としての信頼は、この最後の工程で決まります。
社内の暗黙知の聞き取りにも使えますか?
使えます。ベテラン社員の判断の理由を一つずつ掘り下げる用途は、AIインタビューの得意分野の一つです。聞き取った内容はそのままでは断片的なため、手順書や事例集の形に整理し直す工程まで見込んでおきましょう。
まとめ|AIインタビューは工程を選んで使う
AIインタビューは、AIが聞き手となって多くの相手から話を集める手法です。市場調査、暗黙知の聞き取り、取材記事の制作と使い道は広がっていますが、どの場合もAIが得意とするのは質問の量と整理であり、予定外の深掘りと最後の言葉選びは人の役割として残ります。
字遊堂はこれまで、取材をもとにした記事や社史、採用コンテンツの制作を数多く手がけてきました。その経験から、AIで速くなる工程と人が担う工程を分けることが、取材記事の質を左右すると考えています。
AIで集めた社員の声を採用記事に仕立てたい、ベテランへの聞き取りを社史として残したいといった段階から、字遊堂が取材と編集を引き受けます。話し手の言葉づかいを残した原稿に仕上げたいときは、字遊堂にご相談ください。

