公開日 2026年09月13日
「PDFはもう手元にあるので、あとは電子書籍の形にするだけです」。作成ツールを紹介するページの多くが、ファイルをドラッグするだけ、3ステップで完成、といった操作の手軽さを前面に置いているため、残っている作業は変換だけだと考える方が多いはずです。
しかし、これまで多くの企業資料や個人の原稿を電子書籍にまとめてきた字遊堂の立場から言えるのは、ツールが引き受けてくれるのは全体のごく一部だ、ということです。つまずく場所は、たいてい操作ではなく中身の側にあります。すべてを決めきってから動く必要はありませんが、先に言葉にしておくだけで、あとの工程はずいぶん軽くなるはずです。
本記事では、形式の違いと作成の手順から、無料ツールの選び分け、配信先、費用の目安まで、電子書籍を作る側の視点で順を追ってお伝えします。
電子書籍とはデータで読む本の総称で大きく3つに分かれる
電子書籍という言葉は、紙の本をデータに変換したものだけを指すわけではありません。最初からデータとして作られた読み物も、企業が配るカタログや会社案内も、まとめて電子書籍と呼ばれています。作り方を考えるうえで押さえておきたいのは、呼び名の違いよりも、画面でどう表示されるかの違いです。表示の仕組みで整理すると、大きく3つに分かれます。
リフロー型は文字が画面幅に合わせて流れる
リフロー型は、読む人の画面の大きさや文字サイズに合わせて、文章が自動的に流し込まれる形式です。スマートフォンで開けばスマートフォンの幅に、タブレットで開けばタブレットの幅に、行が組み直されます。小説やビジネス書のように文字が中心の読み物では、この形式が基本になります。ファイル形式にはEPUBがよく使われるのです。国際的な規格として定められた電子書籍の形式のことで、Kindleをはじめとする電子書店の多くが受け付けています。
固定レイアウト型は紙面の見た目をそのまま保つ
固定レイアウト型は、デザインした紙面を崩さずに見せる形式です。写真や図版の位置そのものに意味がある資料、たとえば商品カタログや作品集では、文字が流れ込むと配置が壊れてしまいます。配布にはPDFがよく使われますが、EPUBでも固定レイアウトの本は作れます。ページ全体を1枚の絵として見せたい写真集やコミックにも向いた形式でしょう。ただし、小さな画面では文字が読みにくくなる点は避けられません。
デジタルブックはブラウザ上でページをめくる
デジタルブックは、PDFなどをアップロードすると、ブラウザ上でページをめくって読める状態に変換してくれるものを指します。電子ブックや電子カタログという呼び方をされることもあります。読者はアプリを入れる必要がなく、URLを開くだけで中身を見られます。展示会で配っていた会社案内を、そのままWebサイトに置いて見せたい企業に向いているでしょう。
3つを並べてみると、同じ電子書籍という言葉でも、向いている中身と届け方がまるで違うとわかります。
| 形式 | 向いている中身 | よく使われる場面 |
|---|---|---|
| リフロー型(EPUB) | 文字が中心の読み物 | 電子書店での販売 |
| 固定レイアウト型(PDFやEPUB) | 図版やレイアウトに意味がある資料 | ダウンロード配布、商談での提示 |
| デジタルブック | カタログ、パンフレット、会社案内 | 自社サイトでの閲覧 |
電子書籍の作成は自分で作るか外注するかに分かれる
作り方そのものは、突き詰めると2つしかありません。自分の手で原稿から仕上げるか、制作会社に任せるかです。無料ツールの紹介記事を読んでいると選択肢が無数にあるように見えますが、まず決まるのは、どこまでを自分の時間で引き受けるかという線引きでしょう。
| 進め方 | 費用 | かかる期間 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 自分で作る | 無料から数千円程度 | 数日から数か月 | 原稿ができていて、納期に縛りがない |
| 制作会社に任せる | 数千円から数十万円 | 数日から2か月程度 | 社外に出す資料で、体裁と期日を外せない |
外注の費用に幅があるのは、表紙だけを頼む場合と、企画から執筆まで任せる場合が同じ表に収まっているためです。工程ごとの相場は、後半の費用の章で分けて示します。
ここで見落とされがちなのが、どちらを選んでも原稿そのものは誰かが書かなければならないという点でしょう。ツールも制作会社も、白紙から中身を生み出してはくれません。
電子書籍を作成する前に決めることは4つある
作業に取りかかる前に、次の4つだけは言葉にしておくことをおすすめします。逆に言えば、ここさえ決まっていれば、ツール選びで長く迷うことはなくなります。
誰に何をしてほしいのかを先に言葉にする
電子書籍は、読み終わったあとに読者が何をするかまで含めて設計するものです。資料請求をしてほしいのか、サービスの中身を深く理解してほしいのか、著者としての実績を残したいのか。目的が変われば、載せるべき事例の数も、最後のページに置く文言も変わってきます。目的を決めずに書き始めた原稿は、章を増やすほど何の本か分からなくなります。
読者が読む端末から形式を逆算する
通勤中にスマートフォンで読まれるのか、商談の場でパソコンの画面を一緒にのぞき込むのか。文字が中心ならリフロー型、図版の位置に意味があるなら固定レイアウト型と、中身の性質で先に振り分けます。読者の手元にある画面を思い浮かべておけば、形式で迷う場面はほとんどなくなるはずです。
配信先を決めてから原稿の分量を決める
電子書店で売るのか、自社サイトからダウンロードしてもらうのか、商談の場で手渡すのか。売り物として棚に並べるなら、それなりの読み応えが要ります。一方、資料請求の見返りに渡すものであれば、10ページから20ページほどで読み切れるほうが喜ばれるでしょう。配信先が決まらないまま書き進めると、長さの基準がないまま原稿だけが伸びていきます。
原稿と表紙を誰が用意するのかを決める
表紙は、電子書店の一覧で読者が最初に目にする部分です。中身に自信があっても、表紙で素通りされれば開かれません。ここだけを外部のデザイナーに頼む人は多く、合理的な判断だと見ています。原稿についても、話せるけれど書けないという方は珍しくありません。その場合は、取材を受けて話した内容を原稿に起こしてもらう進め方があります。
とりわけ後回しにされやすいのが、4つ目の分担です。誰がいつまでに原稿を出すかが曖昧なまま走り出した企画は、たいてい途中で止まります。ツールの機能比較では扱いにくい論点ですが、完成まで進んだ企画を振り返ると、この分担が早い段階で決まっていたものが多いと感じています。
書き始める前に、次の4つに答えられるかを確かめてみてください。
- 読み終えた読者に、次に何をしてほしいか
- 読者はどの端末で開くか
- 出来上がったものをどこに置くか
- 原稿と表紙を、誰がいつまでに用意するか
電子書籍を作成する手順は原稿づくりから配信まで一続きで進む
4つが決まったら、あとは順番に手を動かしていくだけになります。全体の流れは、自分で作る場合も外注する場合も変わりません。
- 目的と読者を決め、章立てを組む
- 原稿を書く
- 表紙をつくる
- 電子書籍の形式に変換する
- 配信先に登録し、審査を待って公開する
このうち時間の大半を持っていくのは、2の原稿です。1冊ぶんとなると、A4で数十枚ぶんの文章を書くことになります。週末だけで進めるつもりなら、数か月単位の見通しを持っておいたほうが安全でしょう。
章立てを組む段階では、伝えたい順ではなく、読者が知りたくなる順に並べ替えておきます。書き手が最初に書きたくなる話は、読者にとっては前提が足りないことがあるためです。導入で読者の状況を言い当て、そこから解決に向かう並びにすると、最後まで読まれる確率が上がります。
4の変換でつまずく人も少なくないので、ここは実機での確認を工程に含めておきましょう。変換した直後のファイルは、パソコンの画面では問題なく見えても、スマートフォンで開くと表が横にはみ出したり、画像の文字が読めなくなったりします。公開前に、実際に読者が使う端末で最初から最後までめくってみる。表のはみ出しや画像内の文字の潰れは、この段階でほぼ見つかります。
5の公開にも待ち時間があることを見込んでおいてください。Kindleの場合、出版を申請してから販売が始まるまで、通常は24時間から72時間ほどかかります。発売日を告知するなら、この待ち時間を先に組み込んで申請しておきたいところです。
電子書籍の作成に使える無料ツールは目的で選び分ける
無料で使えるツールは複数ありますが、それぞれ得意な工程が違います。ひとつのツールで最初から最後まで済ませようとすると、かえって遠回りになることがあります。
| ツール | できること | 向いている場面 |
|---|---|---|
| でんでんエディターとでんでんコンバーター | エディターで原稿を整え、コンバーターでEPUBに変換する | 文字中心の読み物を無料で形にする |
| Kindle Create | 原稿をKindle向けの体裁に整え、KPF形式で書き出す | Amazonでの出版を前提にしている |
| Googleドキュメント | 原稿の執筆と、EPUB形式での書き出し | 使い慣れたソフトで完結させたい |
| CanvaやAdobe Express | テンプレートを使った表紙と誌面のデザイン | デザインを担当する人手がない |
| デジタルブック作成ツール | PDFやWordをブラウザでめくれる形に変換する | 自社サイトでカタログを見せる |
名前が似ているため混同されやすいのですが、でんでんエディターは原稿を編集するためのWebサービスで、EPUBへの変換を担うのは姉妹サービスのでんでんコンバーターです。コンバーターが対応しているのはリフロー型のEPUBだけで、固定レイアウトは作れません。1つのファイルにつき3メガバイトという上限もありますから、写真を多く載せる本では別の手段を探すことになります。
Wordについても、誤解されやすい点に触れておきます。Word単体ではEPUB形式で保存できません。PDFとして書き出すか、Word形式のままKDPにアップロードするか、外部のツールを通して変換するかのいずれかを選ぶことになります。Kindleでの出版であれば、Amazonが用意しているKPF形式が推奨されており、Kindle Createから書き出せます。
無料という言葉の中身がツールによって違う点にも注意したいところです。原稿からEPUBを作るところまでは、本当に無料で完結するものがあります。一方でデジタルブック作成ツールは有料のサービスが中心で、無料プランを用意しているものもあれば、月額制ではなく買い切りで提供しているものもありますから、料金の形まで含めて比べてください。
選ぶ軸は、先に決めた配信先です。電子書店で売るならEPUBかKPFを作れるもの、自社サイトで見せるならデジタルブック系、商談で渡すだけならPDFの書き出しができれば十分でしょう。ツールの機能一覧を端から比べる必要はありません。
電子書籍の配信先はストア販売と自社配布で考え方が変わる
同じ1冊でも、どこに置くかで求められるものが変わります。売り物として並べるのか、名刺代わりに配るのかで、力を入れる場所が違ってくるためです。
| 配信先 | 主な目的 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 電子書店 | 販売と、著者としての実績づくり | 価格の設定と、原稿の権利の扱い |
| 自社サイト | 見込み客の連絡先を受け取る | 申込みフォームと、受け取ったあとの連絡の流れ |
| 商談やイベント | 目の前の相手に理解を深めてもらう | 渡す場面と、渡したあとの話の運び方 |
電子書店で売る場合は、表紙と紹介文の比重が大きくなります。書店の一覧に並んだとき、読者が見ているのは表紙の画像とタイトル、そして冒頭の数行だけです。中身をどれだけ作り込んでも、そこで選ばれなければ開かれません。値付けにも制約があり、Kindleでは選ぶロイヤリティの区分によって設定できる価格の範囲が決まっています。
自社サイトで配る場合は、話が逆になります。連絡先を入力してまで受け取ってくれた相手ですから、興味はすでに高い状態です。ここで問われるのは、読み終えたあとに問い合わせへ進みたくなる中身かどうかでしょう。ダウンロード数が目標になっていると、読まれたあとの流れは後回しになりがちです。
電子書籍の作成費用は工程のどこを任せるかで変わる
外注を検討するなら、全部か全部でないかで考える必要はありません。表紙だけ、変換だけ、という頼み方もできます。
| 任せる範囲 | 費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 表紙のデザインだけ | 数千円から1万円台 | 数日から1週間 |
| 原稿はあり、形式への変換と登録の代行 | 2万円から5万円前後 | 1週間から2週間 |
| 表紙のデザインと校正、編集まで含める | 10万円から20万円前後 | 3週間から1か月 |
| 企画と取材、執筆から一括 | 30万円から | 1か月から2か月 |
金額はページ数、図版の点数、取材の有無、修正の回数で動きます。制作会社によっては最低発注金額を設けている場合もありますから、1冊だけ試したいときは先に確認しておきましょう。相見積もりを取るときは、どこまでが料金に含まれるかを揃えてから比べてください。表紙の修正回数や公開後の差し替えが含まれていなければ、直すたびに追加の費用が発生します。
原稿づくりから相談できる先を探しているなら、取材と執筆を本業にしている制作会社が候補になります。字遊堂もその一つで、話を聞いて原稿に起こすところから引き受けています。書けないのではなく、書く時間が取れないという方には、この進め方が合うはずです。
電子書籍の作成でよくある失敗は操作より中身の側で起きる
完成しなかった企画や、公開したあとに作り直しになった案件には、似た共通点があります。
- 目的を決めないまま章を増やし、何の本か分からなくなる
- 会社案内の文章をそのまま流用し、読者の関心と噛み合わない
- 図版を詰め込みすぎて、スマートフォンでは文字が判読できない
- 最後のページに連絡先を置いただけで、次の行動を書いていない
とりわけ多いのが、2番目の流用です。会社案内は、自社を説明するために書かれた文章です。読者が電子書籍に求めているのは、自分の困りごとが解決する道筋であって、企業の沿革ではありません。書き手の言いたいことを並べた資料は、無料で配っても途中で閉じられます。
裏を返せば、既存の資料が使えないわけではありません。事例や数字といった素材はそのまま活きます。並べる順番と主語を、読者の側に置き直す作業が要るだけです。
4番目の失敗は、最後の1ページを書き足すだけで解消します。読み終えた読者が次に何をすればよいのかを、具体的に書いておくのです。相談の申込みなのか、無料の診断なのか、続編の受け取りなのか。行き先を1つに絞って示すほど、動いてもらえます。
電子書籍の作成に関するよくある質問
電子書籍は無料で作れますか
作れます。原稿が手元にあり、文字中心の読み物であれば、無料のツールだけでEPUBまで用意することは十分に可能です。ただし表紙のデザインと、実機での表示確認には手間がかかりますから、時間という形の費用は発生すると考えておいてください。
PDFから電子書籍にできますか
できます。PDFをそのまま固定レイアウト型として配る方法と、デジタルブック作成ツールに読み込ませてブラウザでめくれる形にする方法があります。ただし、PDFを文字が流れ込むリフロー型に変換すると、レイアウトが崩れることが多くあります。文字中心の本にしたい場合は、元の原稿データから作り直したほうが早いでしょう。
個人でも出版できますか
できます。Amazonをはじめとする電子書店は個人の登録を受け付けており、出版社を通さずに販売まで進められます。審査はありますが、内容が規約に触れなければ、通常は24時間から72時間ほどで公開されます。
スマートフォンだけで作れますか
条件つきで作れます。原稿は文書作成アプリで書き、表紙はデザインアプリで用意すれば、EPUBまでは手元で仕上げられます。ただしKindle Createはパソコン向けのソフトですから、KPF形式で仕上げたい場合はパソコンが必要です。数十ページの本を親指だけで書き切るのも現実的ではないため、原稿はパソコン、表示確認はスマートフォンという分担が無難でしょう。
作成にはどのくらいの期間がかかりますか
原稿があるかどうかで大きく変わります。書き上がった原稿があるなら、変換と表紙の準備で2週間ほどが目安になり、そこに審査の待ち時間が加わります。まだ何も書いていない状態からであれば、構成の相談を含めて1か月から2か月は見ておきたいところです。
まとめ|電子書籍の作成はツールより先に中身を決める
電子書籍の作成でつまずくのは、ツールの操作ではありません。目的、読者が使う端末、配信先、原稿と表紙の分担。この4つが決まらないまま変換の作業だけを先に始めてしまうと、途中で何度も立ち止まることになります。逆に、4つが言葉になっていれば、あとの工程は事務的に片づいていきます。
字遊堂は、これまで企業の資料や個人の原稿を電子書籍の形にまとめてきました。取材で話を聞き、原稿に起こし、読まれる体裁に整えるところまでを一続きで引き受けています。4つが固まりきっていない段階で声をかけていただいても構いません。むしろ、その整理から一緒に始めたほうが、公開したあとの作り直しは減るはずです。

