公開日 2025年10月19日
「せっかく立派な社史を作ったのに、誰も読まない。」
「資料室に眠ったままで、社員も存在を知らない。」
――こうした声を、周年事業のあとによく耳にします。
一見すると立派な冊子なのに、“意味のある社史”にならない。
実はそこには、共通する3つの落とし穴があります。
どれも避けられるものばかりです。
落とし穴:1 「出来事の羅列」で終わっている
多くの社史は、「創業→成長→現在」の流れを時系列でまとめています。
しかし、その中身が単なる出来事の並びになってしまうケースが非常に多い。
「この年に新工場を建てた」
「この年に売上が10億円を突破した」
「この年に新社屋を設立した」
――これではまるで年表のコピーです。
数字と出来事だけでは、読む人に“なぜそうなったのか”が伝わりません。
成功する社史との違いは、「判断の背景」と「人の想い」を描いているかどうか。
たとえば、「なぜその時に工場を建てたのか」「どんな葛藤があったのか」といった“物語”があるだけで、
社史は“読み物”に変わります。
出来事を残すだけでは「報告書」。
その意味を残すことで「社史」になります。
落とし穴:2 「作る目的」が曖昧なまま始めている
意外にも多いのが、「何のために社史を作るのか」が不明確なままプロジェクトが進んでいるケースです。
- 周年事業だから作る
- 他社も作っているから
- 役員に言われたから
こうした動機で始めると、方向性が定まらず、
完成したときに「誰に向けたものか分からない」社史になります。
社史は“目的”が曖昧なまま作ると、“意味”も曖昧なまま終わる。
目的を定める際は、最低限以下の問いを明確にしておくことが重要です。
| 視点 | 質問例 |
|---|---|
| 社内向けか社外向けか | 社員教育・理念浸透を目的とするのか、採用・営業に活かすのか |
| 短期目的か長期目的か | 周年事業の一環か、それとも今後の更新を見据えるか |
| 経営戦略との連動 | 経営計画・理念・ブランドストーリーと整合しているか |
この3点が整理されていれば、
「読まれる社史」になる確率は格段に上がります。
落とし穴:3 「作って終わり」で“運用設計”がない
最も多い失敗がこれです。
冊子が完成した瞬間にプロジェクトが終わり、誰もその後の活用を考えていない。
結果、立派な冊子が棚に並び、誰の手にも取られない――。
社史は「完成」ではなく「スタート」からが本番です。
たとえば次のような運用を設計しておくと、社史は“生きた資産”になります。
- 新入社員研修で「創業期の物語」を教材にする
- 社員総会で毎年1ページずつ“更新社史”を発表する
- 採用サイトや広報資料に社史のエピソードを転用する
- 社内イントラやWeb版社史としてデジタル活用する
「残す」から「使う」へ――。
社史の真価は、日々の経営やコミュニケーションの中で発揮されます。
成功企業は「読む人」を想定している
成功している企業の社史には、共通点があります。
それは、「読者を明確に想定して作られている」ということ。
たとえば――
- 社員が読むことを想定して、社内のエピソード中心に構成
- 社外に伝えることを目的に、ブランドストーリーとして編集
- 後継者育成を意識し、創業者の哲学を丁寧に再構成
つまり、“誰のための社史か”を最初に決めているのです。
この一点を押さえるだけで、社史のトーン・構成・見せ方がすべて変わります。
社史を「記録」から「戦略」に変えるために
社史は、ただの過去の記録ではありません。
正しく設計すれば、採用・広報・理念浸透・危機管理――あらゆる分野で“経営資産”になります。
逆に、落とし穴にハマった社史は、
せっかくの労力が「記録の墓場」に終わってしまう。
どれだけ美しいデザインでも、目的がなければ“自己満足”。
どれだけ長い歴史でも、意味づけがなければ“通り過ぎる物語”。
社史は「読む人」を中心に設計する
社史を失敗にしないためのシンプルな原則は一つです。
「書きたいこと」ではなく、「伝えたい相手」から逆算する。
その意識があるだけで、
社史は“記録”から“コミュニケーションツール”へと変わります。
そして、「意味のある社史」は、
会社の過去を照らすだけでなく、未来の行動を導く道標にもなります。
あなたの会社の社史は、
いま“読む価値のある物語”になっていますか?

