公開日 2025年10月18日
採用活動において、企業が伝えるべき情報は山ほどあります。
事業内容、福利厚生、給与制度、働き方改革――。
しかし、応募者が本当に知りたいのは、もっと根源的なことです。
「この会社は、どんな想いで仕事をしているのか」
「ここで働くことに“意味”を感じられるだろうか」
そうした“企業の魂”を伝える最も効果的なツールが、実は社史です。
社史は、単なる記録ではなく、会社の人格を伝えるブランディングメディア。
特に採用市場においては、「働きたい会社」へと印象を変える強力な武器になります。
数字や制度では伝わらない「共感の源」をつくる
現代の求職者は、給与や条件だけで会社を選びません。
Z世代・ミレニアル世代を中心に、価値観や社会的意義を重視する傾向が強まっています。
株式会社学情の調査(2023年)によると、
新卒学生の68.7%が「企業の理念・ストーリーに共感できるか」を重視している
という結果が出ています。
つまり、企業の“物語”をどう伝えるかが採用の分岐点なのです。
その点で、社史には次のような力があります。
- 「何のためにこの事業をしているのか」が伝わる
- 「困難をどう乗り越えてきたか」という人間味が伝わる
- 「この会社らしさ」を物語として表現できる
どれも、求人広告や会社説明会のスライドでは伝えきれない部分です。
社史を採用ブランディングに活かす3つの方法
1. 採用サイトで“創業ストーリー”を公開する
多くの企業が「沿革」を年表で掲載していますが、それだけでは心に響きません。
創業者や現社長の想いを「物語」として伝えるページを設けましょう。
例:
なぜこの事業を始めたのか
最初の顧客との出会い
苦難をどう乗り越えたか
それを文章・写真・動画で見せることで、応募者は「人として共感できる経営」を感じ取れます。
2. 面接や説明会で“社史を語る”
採用担当者や経営者が、社史に基づくエピソードを語ることで、
会社説明が「理念の講義」ではなく「共感のストーリー」に変わります。
「創業当時、社員3人で挑戦したときの話を聞いて入社を決めました」
という声が出るのは、社史を“言葉で語れる文化”がある会社です。
社員一人ひとりが自社の物語を語れるようになれば、
それ自体が企業ブランドの言語化につながります。
3. 入社後教育に“社史研修”を取り入れる
採用ブランディングは、入社後の定着までを含めてこそ意味があります。
そのために効果的なのが、社史を使った理念浸透研修です。
創業者の想いや過去の決断を知ることで、
社員は「自分が今この会社で働いている理由」を理解できます。
社史を学ぶことは、「会社の歴史を知ること」ではなく、
「自分の仕事の意味を見つけること」。
これは離職率低下やエンゲージメント向上にも直結します。
実際の事例:社史で変わった採用の現場
ある製造業の中堅企業では、10年前に紙の社史を作成。
その後、デジタル版をリニューアルし、採用サイトにも掲載しました。
結果、応募数が前年比で1.8倍に増加。
さらに面接時の志望動機に「社史を読んで共感した」という回答が続出。
経営者はこう語ります。
「採用広報をやり直したわけではない。
社史を整理したら、“会社の人格”が自然と伝わるようになった。」
まさに、社史がブランディングの核として機能した事例です。
「数字で示せない魅力」を伝える時代へ
採用市場では、情報が飽和しています。
どの会社も似たような求人条件を並べ、同じような福利厚生を強調します。
そんな中で差がつくのは、「言葉ではなく想いで伝える企業」です。
社史を通じて、会社の歩み・理念・人の物語を可視化すれば、
応募者はその企業に「顔」と「温度」を感じ取ります。
社史は、“会社の履歴書”ではなく、“会社の人格紹介”である。
数字では見えない“信頼の温度”こそ、採用市場での最大の差別化要素です。
採用の武器は「未来」ではなく「過去」にある
社史は過去を振り返るものと思われがちです。
しかし、過去を整理し言葉にすることで、未来を語る力が生まれます。
「どんな会社でありたいか」は、
「これまでどんな会社であったか」の延長線上にしか語れません。
だからこそ、採用市場で“選ばれる企業”になるためには、
社史をブランディングの中心に据えることが欠かせません。
働きたい会社とは、ストーリーのある会社。
そのストーリーを最も正確に語れるのが、社史なのです。

