公開日 2025年10月16日
「創業50周年だから何かイベントをやろう」
「せっかくだから社史も同時に作りたい」
周年を迎える企業の多くが、こうした発想で動き始めます。
しかし、実際の現場では――
「イベントだけ先に決めて、社史は後回しになった」
「社史の原稿が間に合わず、記念式典では配布できなかった」
といった混乱が少なくありません。
周年事業と社史づくりは密接に関係しています。
そして、この2つのどちらを“先”に企画するかで、成果が大きく変わります。
結論から言えば、成功する企業は「社史」から先に着手しているのです。
周年事業は「結果」を祝う。社史は「理由」を整理する。
周年事業は、社内外に向けて「これまでの歩みを祝う場」です。
一方で、社史は「なぜその歩みを続けてこられたのか」を言語化する場。
つまり、周年事業が「結果の発信」だとすれば、
社史は「その結果を導いた理由の整理」です。
どちらが先かと問われれば、
当然「理由」がなければ「結果」は語れません。
成功企業が社史から始める理由
1. メッセージがぶれない
周年事業では、スローガンやコンセプトを決める必要があります。
しかし、理念や歴史をきちんと整理していないと、
「何を祝いたいのか」が曖昧になりがちです。
社史づくりを先に進めておけば、
創業の原点・経営の変遷・社員の物語などが整理され、
周年事業のテーマ設定に“芯”が通ります。
例:
「感謝」だけを掲げるのではなく、
「挑戦し続けるDNAへの感謝」など、企業らしさが伝わるメッセージに。
2. 周年事業の“素材”を社史が生む
多くの企業が周年イベントを準備する中で悩むのが、
「式典映像や記念冊子に載せるネタがない」ということ。
社史を先に作成していれば、
すでにインタビュー・写真・年表・エピソードが整理されています。
それらを再編集するだけで、式典スピーチ・映像構成・社内展示などに活用できます。
社史は周年事業の台本であり、素材集でもある。
社史なしで周年を迎えるのは、脚本なしで舞台を上演するようなものです。
3. 社員が「祝う理由」を理解できる
周年事業を盛り上げたいと考えても、
社員が「何を祝っているのか」を理解していなければ、
式典は“盛り上がらないイベント”になってしまいます。
社史の作成過程で社員インタビューを行うと、
創業の苦労や会社の強みが共有され、
社員一人ひとりが会社の歴史を自分ごととして語れるようになります。
その結果、周年式典の雰囲気もまったく変わります。
「祝う」ためには、まず「理解する」こと。
その理解を生むのが社史づくりなのです。
逆の順番で失敗したケース
ある地方メーカーでは、創業100周年の式典を先に企画しました。
会場を押さえ、映像会社や司会者を手配。
その後に「せっかくだから社史も作ろう」と動き出したものの、
資料整理や関係者取材に時間がかかり、
結局、式典当日に間に合わず、
後日“形だけ”の冊子を作る結果になりました。
担当者はこう語ります。
「本来なら社史が式典の中心にあるべきだった。
でも、イベントを先に決めたことで、内容が空洞になってしまった。」
周年を盛り上げたはずが、会社の中に何も残らなかった――。
このケースは決して珍しくありません。
社史から始めた企業が得た「副産物」
一方、ある建設会社では、創業60周年を2年前に控えて社史プロジェクトを開始。
社員・OB・取引先を巻き込み、約1年かけて会社の歴史を再構築しました。
すると、思いがけない効果が現れました。
社史制作のインタビューを通じて、
若手社員が創業者の想いに触れ、社内で「自社愛」が高まったのです。
完成した社史をもとに周年事業のテーマを決め、
式典では創業期の映像を上映。
社員が自然と涙を流し、
「この会社を未来につなげたい」と口々に語りました。
イベントの感動をつくったのは、社史で紡いだ“会社の物語”だったのです。
理想的な進め方:3年スパンで考える
周年事業を本当に価値あるものにするには、
少なくとも2〜3年前から社史づくりをスタートするのが理想です。
スケジュールの目安
| 年度 | 目的 | 主な活動 |
|---|---|---|
| 周年3年前 | 「会社の原点を掘り起こす」 | 資料整理・インタビュー・社史構成設計 |
| 周年2年前 | 「ストーリーをまとめる」 | 執筆・デザイン・社員共有会 |
| 周年前後 | 「社会に発信する」 | 式典・映像・Web・展示・社史配布 |
この順番なら、「社史を作る」→「社員が理解する」→「社会に伝える」という自然な流れができます。
祝う前に、語れるようにする
周年事業は、会社が社会に感謝を伝える晴れ舞台。
けれども、祝う前に「なぜここまで来られたのか」を語れる状態にしておくことが欠かせません。
社史は、会社の過去を整理し、社員の誇りを生み出す装置です。
その成果があってこそ、周年事業が「一過性のイベント」ではなく、
未来へ続く“節目の経営戦略”になります。
社史が根であり、周年事業は花である。
根を張らずに花は咲かない。
だからこそ、順番は迷わず――
「社史」から始める。

