公開日 2025年10月09日
企業にとって、災害や不祥事は突然やってきます。
台風や地震といった自然災害、情報漏えい、品質トラブル、SNS炎上――。
どれも予測不能で、ひとつ間違えば会社の信用を失うリスクをはらんでいます。
そんな時、実は「社史」が危機管理のツールとして大きな力を発揮することがあります。
それは、過去に会社がどんな危機に直面し、どう乗り越えてきたのかという“信頼の履歴”が
すでに社史の中に残っているからです。
「平時の記録」が、有事の“盾”になる
社史の本質は「過去の出来事を正確に記録すること」です。
しかし、単なる出来事の列挙ではなく、その時どんな判断をしたか、何を学んだかを残すことこそ価値になります。
たとえば――
- 創業期に起きた大規模火災から再建した記録
- 不況時に社員を守るために下した経営判断
- 取引先トラブルを誠実対応で乗り越えた事例
これらを社史として残しておけば、将来の経営陣や社員が危機に直面した際、
「私たちは過去にもこれを乗り越えてきた」と自信を持てます。
つまり、社史は“危機時の行動指針”を提供するツールでもあるのです。
不祥事後の「説明責任」にも効く
万が一、不祥事が起きたとき、社会や取引先から求められるのは説明責任です。
そのときに、企業の理念や過去の歩みが明確に整理されている社史があれば、
「何を守ってきた会社なのか」「どんな姿勢で再発防止に取り組むのか」を伝えやすくなります。
たとえば、品質不正の報道が出た企業でも、
「創業以来、誠実なモノづくりを続けてきた」という社史的文脈があれば、
一時的な過ちを“組織全体の本質”と混同されにくくなります。
危機時に最も大切なのは、「社会が企業をどう見るか」。
その信頼を支えるのが、社史という企業の人格証明書なのです。
東日本大震災で見えた「記録の力」
2011年の東日本大震災では、多くの企業が本社や工場を失いました。
そのなかで、過去の震災記録や防災マニュアルを社史として残していた企業は、
復旧対応が早く、社員の安全確保や業務再開の初動もスムーズだったといわれています。
たとえば、ある食品メーカーでは、
「1978年 宮城県沖地震の際に本社ビルが被災した記録」が社史に残っており、
その内容をもとに防災マニュアルを再整備していました。
結果、2011年の震災時には、社員避難ルートや代替供給計画が迅速に機能したのです。
教訓は“記録の中”にしか残らない。
社史は、将来の危機を乗り越えるための「企業の記憶装置」でもあります。
社史が“炎上”を防ぐ? SNS時代の危機管理にも効果
現代の危機の多くは、SNSを通じて一瞬で拡散します。
不正確な情報が広まり、企業の評判を一気に落とすことも珍しくありません。
そのとき、企業の背景や理念、長年の姿勢を正しく伝える情報源として
社史が機能するケースがあります。
実際、あるサービス業では、SNS上で誤解を招く投稿が拡散された際、
公式サイトで「創業時からの理念」を抜粋した社史ページを公開。
「誠実な会社だ」「ここまで歴史を重ねているのなら信頼できる」といった
ポジティブな反応が増え、炎上は早期に沈静化しました。
危機の瞬間こそ、言葉よりも“積み重ね”が語るのです。
社史は、その積み重ねを見える形にした“信頼の証拠”といえます。
「社史×BCP(事業継続計画)」という新しい発想
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、災害時の業務維持を目的とした計画書です。
しかし、数字やフローだけのBCPでは、人の行動を変える力が弱いのも事実。
そこに社史の要素を掛け合わせることで、
社員の心に響く“生きたBCP”に変わります。
たとえば、過去の震災・水害の記録を社史で整理し、
「当時どんな決断が功を奏したか」「どんな後悔があったか」を
ナレッジとして残す。
これにより、危機時の判断に“物語的根拠”が生まれます。
数字が人を動かすのではなく、物語が行動を導く。
社史は、BCPの実効性を高める「人の心に残る計画書」に変えることができます。
実際に起きた変化:社員の危機意識が変わる
ある建設会社では、社史を制作する過程で、
過去に起きた工事事故と再発防止への取り組みをまとめました。
当時を知る社員へのインタビューを通じて、
「二度と同じことを起こさない」という創業者の決意が明文化され、
全社員が共有することに。
完成後、社内では「危機管理は経営の一部」という意識が浸透し、
安全会議の参加率も向上。
単なる冊子が、危機への向き合い方を変える教育ツールになりました。
危機を“記録できる会社”が、生き残る
災害や不祥事は避けられません。
しかし、それをどう乗り越えるか、どう伝えるかは企業次第です。
社史は、危機を「一過性の出来事」ではなく「未来への学び」に変えるツール。
そして、いざというときに会社を守る「信頼の盾」です。
「あのとき何を学んだか」
「どんな想いで立ち直ったか」
それを言葉として残している会社だけが、
次の危機にも立ち向かう力を持っています。
だからこそ、
“平時にこそ社史を作る”――それが本当の危機管理なのです。

