公開日 2025年10月07日
多くの企業で作られてきた社史は、いわば「会社の歴史を記録した冊子」でした。
創業からの歩みや年表を整え、節目ごとの出来事を時系列で並べる――。
確かに、資料としての価値はあります。
しかし、現代の社史に求められるのは、単なる記録ではありません。
社員が読んで誇りを感じ、誰かに語りたくなるような“参加型のストーリー”です。
「読む社史」から「語る社史」へ。
その発想の転換こそが、これからの時代の社史づくりに必要な視点です。
“語りたくなる社史”が会社にもたらすもの
社員が自分の言葉で会社の歴史や理念を語れるようになると、
社内外に次のような変化が起こります。
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社員同士の一体感が高まる
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採用説明会や営業活動で自然に理念を伝えられる
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社内のストーリーテリング文化が根づく
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「自分もこの会社の物語の一部だ」という誇りが生まれる
つまり、社員が社史を自分の物語として語れる状態こそ、最も理想的な“社史の完成形”なのです。
参加型社史づくりが機能する3つの理由
1. 社員の「当事者意識」を引き出せる
社史の多くは経営陣や制作会社主導で作られがちですが、
社員が関わらなければ「自分ごと」になりません。
インタビューや座談会を通じて、社員自身が体験を語ることで、
社史は“誰かが作った本”から“自分たちで作った物語”へと変わります。
例:
若手社員が「会社の歴史を知って驚いた」と語る
ベテラン社員が「自分の仕事が社史に載った」と誇りを持つ
この体験が、自然とエンゲージメントを高めるのです。
2. 「理念」を体験として共有できる
社史を通じて理念を語るとき、文章だけでは伝わらない部分があります。
社員が自らの体験を交えて語ることで、
理念は抽象的な言葉から“現場で生きている価値観”へと変わります。
例:
「お客様第一」をテーマに、各部署のエピソードを集める
「挑戦」を象徴する失敗談や転機のストーリーを収録する
こうした「理念を体験で語る社史」は、社内の価値共有にとても効果的です。
3. 世代間のギャップを埋める“対話の場”になる
参加型社史づくりの大きな特徴は、世代を超えた対話が生まれることです。
創業者やベテラン社員へのインタビューを若手が担当することで、
過去と現在、上層と現場が同じテーブルにつきます。
その過程で、「今の若い社員には分からない」と思っていた世代の差が、
「こんな思いでこの会社を作ってきたんだ」という共感へと変わります。
社史づくりそのものが、組織の風通しを良くするワークショップになるのです。
ストーリー設計のポイント
社員が語りたくなる社史をつくるためには、
「年表型」ではなく、「ストーリー型」の設計が欠かせません。
以下の3つの視点で構成を組み立てると効果的です。
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「創業の想い」を物語の起点にする
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社史の冒頭に創業者の信念や決断の瞬間を入れる
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感情の起点があると、読者も共感しやすい
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「転機」や「挑戦」を中心に描く
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成功よりも苦労や危機をどう乗り越えたかに焦点を当てる
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“人間の物語”として心に残る社史になる
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「これからの物語」を最後に置く
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社史を「過去で終わらせない」
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社員の未来への決意や若手の夢を掲載し、「続きがある社史」にする
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この3つの軸で設計すれば、社史は単なる記録物ではなく、
“会社というチームのストーリーブック”になります。
実例:社員が語ることで生まれた変化
あるサービス業の企業では、創業30周年を記念して社史を制作しました。
当初は「経営陣だけでまとめよう」と考えていましたが、
ライターの提案で社員インタビューを中心に進めることに。
インタビューは延べ40名にのぼり、
「入社当時に助けてもらった話」「初めて受注した日のこと」など、
社員それぞれの物語が集まりました。
完成した社史は、単なる冊子ではなく“社内で語り継がれる教材”になりました。
新入社員研修では先輩社員が社史を片手にエピソードを語り、
採用イベントでは応募者が「この会社の文化が伝わった」と話すようになったのです。
社史は“自分たちで語り継ぐ文化”の始まり
社員が語りたくなる社史とは、
会社の歩みを外部に誇るための冊子ではなく、
「自分たちが何者なのか」を再確認するための鏡です。
誰かが書いた歴史ではなく、みんなで紡いだ物語。
それを共有することで、社内の空気が変わり、
理念が生きた文化へと変わっていきます。
社史は完成した瞬間がゴールではありません。
それは、「社員が語り続ける会社のストーリー」が始まるスタートラインなのです。

