公開日 2025年09月28日
社史は、単なる記録ではなく会社の未来をつくる経営ツールです。
しかし実際には、「せっかく作ったのに社内で活用されない」「完成後に問題が表面化した」という失敗も少なくありません。
特に代替わりのタイミングでの社史作成は、準備不足が命取りになります。
先代と後継者の意見の食い違いや、社員への説明不足が原因で、プロジェクト自体が停滞してしまうこともあるのです。
ここでは、社史作成を成功させるために、代替わり前に必ずやっておくべき3つの準備を解説します。
よくある失敗例
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目的が曖昧なままスタート
「周年記念だから」「他社がやっているから」という理由だけで作り始めると、
完成後に「結局どう使えばいいのか分からない」という事態になります。 -
社内の温度差が埋まらない
経営陣は前向きでも、社員は「忙しいのに何のため?」と冷めた空気。
この温度差が最後まで解消されず、活用されない社史になってしまいます。 -
代替わりの不安が表面化
先代と後継者の考え方が異なるまま作業を進めると、
プロジェクトの途中で方向性が揺らぎ、結果的に完成しないこともあります。
準備1:「目的」を明確にする
まず最初にやるべきことは、社史作成の目的を明文化することです。
これは「冊子を作る」という作業目的ではなく、「なぜ作るのか」「完成後にどう活用するのか」という経営視点で考えます。
目的設定の例
- 社員に理念を浸透させ、組織を一つにするため
- 採用活動で会社の魅力を伝えるツールにするため
- 代替わり時に先代の想いを次世代へ引き継ぐため
- 金融機関や取引先への信頼性を高めるため
目的を明確にしておくことで、完成後の活用イメージが具体化し、
「ただ記録を残すだけの社史」にならずに済みます。
チェックポイント
完成した社史をどこで、誰に、どのように使うかが明確になっているか?
経営陣全員が同じ言葉で目的を説明できる状態になっているか?
準備2:社内の合意形成を整える
社史は経営陣だけのプロジェクトではありません。
社員にとっても「自分ごと」になって初めて、活用される社史になります。
そのために必要なのが社内合意の形成です。
プロジェクトの初期段階で、以下のようなステップを踏みましょう。
合意形成のステップ
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キックオフミーティングを開催
社史を作る背景と目的を全社員に共有。
経営者自身が直接言葉で伝えることで、信頼度が高まります。 -
代表メンバーを選出
部署横断で数名の「社史プロジェクトチーム」を編成。
現場の声を拾いながら進められる体制をつくります。 -
参加型のインタビューを実施
社史を作る過程で社員インタビューを行い、過去の出来事や価値観を共有する。
これ自体が社内コミュニケーション活性化のきっかけになります。
注意点
社員が「上から押し付けられた仕事」と感じると協力が得られません。
初期段階での情報共有と意見交換が、成功の分かれ道です。
準備3:代替わりビジョンを言語化する
代替わりを控えるタイミングでは、先代と後継者の価値観や方向性を一致させることが欠かせません。
ここが曖昧なまま社史作りを始めると、途中で衝突が起き、最悪の場合プロジェクトが中断してしまいます。
ビジョン言語化のポイント
- 先代がどんな想いで会社をつくり、守ってきたのか
- 後継者がこれからどんな会社にしたいのか
- その二つをどうつなげて、未来を描くのか
これらを整理し、短いメッセージとしてまとめておくことで、
社史が「過去と未来をつなぐストーリー」になります。
事例:ある老舗企業のケース
社史作成の打ち合わせを通じて、先代は「守るべき伝統」を語り、後継者は「挑戦すべき未来」を語りました。
対話を重ねる中で双方の想いが整理され、社史は事業承継式典で発表する未来宣言へとつながりました。
社史作成は準備が9割
社史作成は「冊子を作る作業」ではなく、会社の理念や文化を未来へつなぐプロジェクトです。
その成功は、完成品のデザインや文章よりも、事前の準備にかかっています。
- 目的を明確にする
- 社内の合意を形成する
- 代替わりビジョンを言語化する
この3つをしっかり整えたうえでスタートすれば、社史は「形だけの記録物」ではなく、
未来を動かす経営資産になります。
代替わり前という特別なタイミングだからこそ、
まずは社史作りの土台を固める一歩を踏み出してみてください。

