公開日 2025年09月24日
中小企業の経営者と話をしていると、よく耳にする言葉があります。
「社史はそのうち作りたいけど、今は忙しくて……」
「周年記念が近づいたら考えるつもりです」
しかし、多くの場合、その「そのうち」は何年経ってもやってきません。
気づいたときには創業当時を知る社員が退職してしまい、資料も散逸し、
社史を作るための“生きた情報”が失われてしまいます。
なぜ中小企業では、社史作成が後回しにされてしまうのでしょうか。
ここには5つの共通した背景があります。
1. 緊急性が低く、日々の業務に追われるから
経営者にとって、日々の業務は常に「火消し」の連続です。
売上の確保、人材採用、資金繰り――これらは会社を回すために欠かせない緊急課題です。
一方、社史作成はどうしても「急がなくても困らない仕事」に見えてしまいます。
そのため、日々の業務に追われる中で後回しになりがちです。
しかし実際には、代替わりや周年記念は突然やってきます。
「その時にまとめればいい」と思っていると、間に合わなくなり、
結果的に“駆け込み制作”で中身が薄い冊子になってしまいます。
2. 投資対効果が見えづらいから
中小企業では「社史を作ると何が得られるのか」というROI(投資対効果)が分かりにくく、経営陣を説得できないケースが多くあります。
例えば広告や営業ツールなら、効果が数字で見えやすいですが、
社史は売上に直結しないと考えられがちです。
しかし、実際には以下のような効果があります。
- 採用力強化:求職者の志望度アップ、内定辞退率低下
- 社員エンゲージメント向上:理念浸透、離職率低下
- 外部信用力向上:金融機関や取引先からの評価アップ
これらは数字で表れにくいものの、中長期的に経営を支える重要な要素です。
社史は“過去をまとめるコスト”ではなく、“未来への投資”として位置づけるべきなのです。
3. 「大企業のもの」という思い込み
社史という言葉には「立派な会社が周年記念に作るもの」というイメージがあります。
実際、大企業の分厚い社史を見たことがある人ほど、「うちには無理だ」と感じがちです。
しかし、今は小規模・低コストで始められる社史作成も広がっています。
たとえば「記録型社史」という方法なら、毎年写真やエピソードを数十ページにまとめるだけ。
これを積み重ねていけば、5年後・10年後には立派な社史になります。
「大企業だからできる」という思い込みを捨てることが、第一歩になります。
4. 社史の活用方法が分からない
「作っても棚に眠るだけでは意味がない」という声もよく聞きます。
これは裏を返せば、作った後の活用方法が知られていないということです。
実際、社史は営業や採用の場で強力なツールになります。
- 採用説明会で社史を配布 → 応募数が増える
- 初回商談で社史を提示 → 信頼感が高まり契約率アップ
- 内定者研修で創業ストーリーを共有 → 入社後の定着率向上
こうした活用法を最初に設計しておけば、社史は“眠らない資産”になります。
5. 先延ばしにするほど作りづらくなる
最大の問題は、「今すぐ困らないから後回し」にしているうちに、
作る難易度がどんどん上がっていくということです。
- 創業当時を知る社員が退職し、語り手がいなくなる
- 古い資料や写真が散逸して見つからなくなる
- 経営陣交代で過去の意思決定の背景が分からなくなる
一度失われた情報は、二度と取り戻せません。
「やるなら今」というのは、決して大げさな言葉ではないのです。
後回しにしないための第一歩
社史を後回しにしないためには、「一気に完成させる」という発想を捨てましょう。
おすすめは、毎年の記録を積み重ねるスモールスタート型社史です。
- 1年分の主要な出来事を20〜30ページにまとめる
- 写真・エピソード・数字を簡単に整理
- 翌年以降も同じ形式で更新していく
これなら初期費用を抑えつつ、日常業務に大きな負担をかけずに取り組めます。
数年後には、その積み重ねが立派な社史となり、周年事業や採用広報にも活用できます。
未来を守るための「今」
中小企業で社史が後回しにされる背景には、緊急性の低さ、ROIの不透明さ、大企業のイメージ、活用方法の不明確さといった理由があります。
しかし、そのまま放置すれば、会社の物語は失われ、理念や文化が断絶してしまいます。
社史は「過去をまとめる贅沢品」ではなく、未来を守るための経営ツールです。
後回しにすればするほど作れなくなるからこそ、最初の一歩を踏み出すタイミングは今なのです。

