公開日 2025年09月19日
3代目として会社を継ぐことを決意したとき、多くの後継者は「祖父の存在の大きさ」を改めて感じます。
祖父のことは家族としては知っていても、経営者としての祖父を深く知っている人は意外と少ないからです。
「なぜ祖父はこのタイミングで新事業に踏み切ったのか」
「どんな価値観で社員と接していたのか」
「経営判断の裏には何があったのか」
こうした問いに答えられないままバトンを受け取ると、経営の舵取りに迷いが生まれます。
特に戦後や高度経済成長期に創業した企業では、創業者を直接知る社員がすでに退職しているケースも多く、“生きた証言”が消えつつある現実があります。
「創業者の想い」を知らずに経営するリスク
創業者がどんな理念を持ち、どんな判断で会社を育ててきたか――これは単なる思い出話ではなく、経営判断の軸そのものです。
もしその軸を知らずに経営を進めると、次のようなリスクが生じるかもしれません。
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会社の強みや独自性を見失い、戦略がブレる
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社員が理念を理解できず、離職やモチベーション低下を招く
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代替わり時に「新社長と先代の考えが違う」と社内に不信感が生まれる
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創業期からの顧客や取引先が離れる
こうした混乱は、経営者個人だけでなく会社全体に影響を及ぼします。つまり、「祖父を経営者として知らない」という状況は、事業そのもののリスクでもあるのです。
社史は“見えないバトン”を形にする
この不安を解消する最も効果的な手段が社史の作成です。社史は単なる記録ではなく、会社のDNAを言語化するプロジェクトでもあります。
例えば、創業当時を知る社員や家族へのインタビュー、当時の資料や写真の整理を通じて、
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祖父が下した大きな経営判断の背景
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会社が大切にしてきた価値観や理念
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代々受け継がれてきた技術やノウハウ
これらが明確になります。そして、それを一冊にまとめることで、「見えないバトン」が目に見える形になるのです。
社史作成が3代目にもたらす3つのメリット
1. 経営判断の拠り所ができる
社史で祖父の意思決定や経営哲学を理解すれば、自分が新たな選択を迫られたときも「この会社らしい判断」を迷いなく下せます。
まさに「先人からの教え」を活かせるようになるのです。
2. 社員とのコミュニケーションが円滑になる
代替わり直後は「新社長に付いていけるのか」という不安が社員に広がりがちです。
社史を使って理念を共有すれば、社内が同じ方向を向くきっかけになります。
3. 取引先・顧客からの信頼強化
「この会社には長い歴史と理念がある」と伝えることは、取引先や金融機関にとって安心材料になります。
特に事業承継期は、外部からの信頼を固める大きなチャンスです。
「いつか」ではなく「今」作る理由
多くの企業が「落ち着いたら作ろう」「周年記念のタイミングで」と考えます。
しかし、その間に創業期を知る人材は引退し、当時の資料も散逸してしまいます。
一度失われた記憶は二度と取り戻せません。
社史作成は早ければ早いほど価値が高いのです。
小規模な取り組みから始めても構いません。
たとえば、年に一度、数十ページの記録冊子を作るだけでも、積み重ねれば将来の大きな資産になります。
初代の記憶が残る最後の世代こそ社史作成を
祖父を経営者として知らないまま会社を継ぐことは、
「見えない地図を頼りに航海する」ようなものです。
社史は、その地図を描き、未来の航路を示すツールです。
3代目自身の不安を解消し、社員や取引先に安心感を与えるためにも、
今こそ自社の歴史を形にしてみてはいかがでしょうか。
それは、祖父から受け取った見えないバトンを、次の世代へしっかりと渡すための第一歩になるはずです。

