公開日 2025年03月10日
更新日 2025年03月10日

2020年以降、在宅ワークの浸透や副業ブームの加速により、多くの人がライターやデザイナーとして活動を始めました。しかし、これらの人々は本当に「クリエイター」と呼べる存在なのでしょうか。私はそうは思いません。ゼロイチができない以上、彼らは従来のクリエイターとはまったく別の存在だと思っています。
本記事では、クリエイターの定義を確認したのち、副業ブームによって生まれたライターやデザイナーが、クリエイティブとは異なる性質を持つことを考察します。
クリエイターとは何か?
クリエイターとは、ゼロから何かを生み出す能力を持ち、独自のアイデアや発想を形にする人です。さまざまな定義がありますが、一般的にはアーティストや作家、映像クリエイターやゲーム開発者などがその代表例です。彼らは市場のニーズに迎合するのではなく、新しい価値や文化を創造する存在です。クリエイターの主な特徴としては、以下の要素が挙げられます。
- 独創性:他にはないアイデアを生み出す力
- 発信力:自身の作品を発表し、影響を与える能力
- 持続的な創作活動:短期的な収益ではなく、長期的な視点で価値を生み出す
個人的には、ゲーム「ポケットモンスター」を生み出した田尻 智氏が例として挙げやすいと感じています。彼は幼少期に親しんだ昆虫採集からヒントを得て、世界的コンテンツとなったポケモンを作りました。何もないところから新しいコンテンツを生み出す。これこそクリエイティブなわけです。
近年誕生したライターやデザイナーは「クライアントワーカー」
一方で、近年増加しているライターやデザイナーの多くは、クリエイターを自称しているものの別の存在だと確信しています。その実態は、クライアントの要望に沿った制作を行う「クライアントワーカー」です。
彼らの仕事は、既存のテンプレートやルールに沿った形でコンテンツを作成することであり、創造というよりも「提供」に近いものです。
クライアントワーカーの特徴は、以下のとおりです。
- 受注型の仕事:クライアントの依頼に基づいて作業をする
- 決められたフォーマットに従う:SEO記事や定型デザインなど、既存の枠組みを活用する
- 創造ではなく最適化:独創性よりも、クライアントの求める成果を効率的に達成することが目的
私もWebライターからスタートした身の上であるため、正しくはクライアントワーカーかもしれません。しかし、創作活動の領域にも足を踏み入れている側面もあるため、ちょうどそのはざまにいる存在ということもできます。
話が脱線しましたが、結局、現在多く活動している人はクリエイターではなくクライアントワーカー。お膳立てされていなければ仕事がないと言われても仕方がない存在なのです。
なぜこんなにも増えたのか
私はクライアントワーカーが増えた理由として、以下の理由があると考えています。
- 在宅ワークの普及・浸透
- 量産型コンテンツの需要増加
- お膳立てされた環境
それぞれ解説します。
在宅ワークの普及・浸透
コロナ禍を契機に、リモートワークや副業が急速に普及しました。クラウドソーシングサービスの拡充により、未経験でも手軽にライティングやデザインの仕事を請け負うことが可能になったのは、説明不要でしょう。これにより、副業として「クリエイティブ職」に参入する人が増加しました。
副業としてのクリエイティブ職は、以下のような特徴があります。
- 未経験者でも参入しやすい:プラットフォームが仕事をマッチングしてくれる
- 低コストで始められる:特別な設備が不要で、パソコン1台で始められる
- 安定した収益が難しい:単価が低く、競争が激しい
要するに参入障壁が低い買い叩かれやすい労働市場が、このタイミングで普及したのです。
この状況を煽ってスクールビジネスをし、使い物にならないクライアントワーカーもどきを量産した自称講師の方々には、マリアナ海溝よりも深く反省していただきたい所存です。
量産型コンテンツの需要増加
ライターやデザイナーの多くは、SEOライティングや定型デザインの制作に従事しています。
これらの仕事は、検索エンジンのアルゴリズムやクライアントの意向に沿って作成されるため、独自性よりも「最適化」や「効率性」が重視されました。
そしてGoogle側も、それを重視していたのは否定できません。その結果、クリエイター本来の「ゼロイチ」的な創造力とは異なるスキルセットが求められるようになったのです。
しかし、現在はアルゴリズムの変更に伴い、独自性が求められるようになりました。これに対応できないクライアントワーカーが脱落していくのは、納得する以外にありません。
お膳立てされた環境
私はこれがもっとも大きな原因ではないかと思っています。主に幼少期の話ですが、体感的に40代後半とそれより若い層で明確に違う気がしています。
それは遊び方です。
40代後半くらいだと、外に出て自分たちで遊ぶ場所や道具を探し、遊びを考えるところから始めていました。当然私は生まれていない時代ですが、まだまだ当時は遊びは「作るもの」という認識だったと思います。
ところが、それより年齢が若くなると、遊び道具が揃っているからわざわざ「遊び方」から考えなくてもいい。決められたルールで遊べば十分楽しいので、最初からゼロイチを考える必要はありません。
これが本当の意味でクリエイターが生まれない原因なのではないかな、と思っています。試行錯誤して楽しいものを作る必要がなくなるのなら、楽な方に流れていくのが人間のサガです。
ゼロイチができないクリエイターの生存戦略
ではゼロイチができないクリエイターは、一生指をくわえてクライアントワークに徹するしかないのでしょうか。
私はそうは思いません。なぜならヒントはそこら中に落ちていて、それに気が付けるかどうかが今後重要になるからだと思うからです。
どうやったらヒントに気が付けるのか…ですが、これは人に会って話をする以外ないと思います。
AIも進化してたいていのことは解決できるようになった昨今、特定の悩みから革新的なものを生み出すのは不可能に近いでしょう。
しかし、そこにある、AIでは読み取れない根本的な悩みに気が付くことはできるはずです。その悩みをヒントにし、相手の言いたいことや伝えたいことを文章やデザインで表現していくことはできます。
今後のクリエイターは、クライアントワークで培った質問力と妄想力があらゆるところで活かしていけば続けられると思っているわけです。
人の存在が「ヒューマンリソース(=人的資源)」といわれるようになり、そこに自然が介在する必要はなくなりました。その人を活かして新たな創作物を作ること。これこそが今後のクリエイターの生存戦略のひとつではないかと私は思います。