公開日 2024年09月02日
更新日 2024年09月02日

クリエイターのキャリアを語る際に出てくる「ディレクター」という存在。ことライターにおいては「次はディレクターだ!」と息巻いている人も少なくありません。しかし、ひと口にディレクターといっても定義があいまいで、本当にクリエイターの上位はディレクターなのかをはっきりさせておく必要があります。
本記事では、私が考えるディレクターの種類と特徴などをもとに、本当に手を動かす側の人がディレクターに適しているのかを語っていきます。
Webディレクターの仕事
個人的にですが、ライターに限った話ですが、ライターの言うディレクターはディレクターではないと思っています。一般的なディレクターとは、以下の仕事をする人です。
- 制作物の品質管理(ディレクション)
- ワイヤーフレーム作成
- 顧客との渉外担当
ポイントは、顧客との渉外を行う点です。これはオンライン・オフラインを問わず、顧客とのスケジュール調整や進捗報告、予算の交渉や修正点のとりまとめを行うものです。つまり、ディレクターには、コンテンツの良し悪しを見る目とお金の交渉や現状を踏まえた論理的な解説ができる必要があります。冒頭申し上げた「一般的にライターがいうディレクターはディレクターではない」とは、品質維持だけが仕事と勘違いしている人が多いのではないかという仮説から来ています。
ちなみに、PM(プロジェクトマネージャー)の場合、さらに上流の工程を指す役職です。ディレクターを含めたチームメンバーのマネジメントや目的の達成までを伴走する人のことです。本記事ではPMは別物として考えると思ってください。
Webディレクターには2種類いる
経験上、Webディレクターには2種類いると思っています。それは「クリエイターあがり」と「営業あがり」です。それぞれ面白いくらい属性が違うので、それぞれの特徴を解説します。
なお、あくまで個人の経験上の話ですので、全員が全員そうだというわけではありません。悪しからずご了承ください。
クリエイターあがりのディレクター
まずはクリエイターあがりのディレクターです。読んで字のごとく、多くの製作物を手掛けてきたクリエイティブが、次のフェーズとして挑戦するケースです。
クリエイター出身であるため、製作物のクオリティは非常に高いものが要求されます。自分自身が製作物を作れる関係で、こだわりが強いのが特徴です。実際の成果物も非常にきれいなことが多く、納品時の顧客満足度も比較的高いと思われます。
一方で、お金の交渉については苦手なことが、課題として挙げられます。現在の(特にWeb系)クリエイターは応募型で仕事を取ってくることが多いため、自分で見積書を作った経験がない人も少なくありません。また、基本的に制作にかかる費用の内訳を細分化できていいないことも多々あり、結果として金額として妥当ではない費用で請け負ってしまう恐れもあります。
営業あがりのディレクター
もうひとつが、営業あがりのディレクターです。お客様と多くのやり取りをしてきた関係で、渉外能力が非常に高いという特徴があります。
営業ができるため、お金の計算や交渉が非常に得意です。細かな作業の金額まで導き出すことができるため、クリエイターに対して十分な予算を提供できる側面があります。また、お客様の満足度や不満などを的確に吸い上げることもできる点は、クリエイター出身のディレクターにはないスキルといえるでしょう。
反面、製作物の良し悪しは現場任せであることも珍しくありません。自分たちは顧客を獲得するのが仕事であり、製作物の品質担保は専門外です。当たり前といえば当たり前かもしれませんが、そういう意味ではクオリティを気にする制作サイドとして気にかかる節はある可能性はあります。
結局どちらに適性があるのか?
一長一短ですが、どちらが適しているかといわれると、「足して2で割ったらいい」という回答しかできません。現実問題としてこの両方ができる人に会ったことはあまりなく、極端でないにしろどちらかに偏っている人が多数派です。
裏返して言うのであれば、結局どちらもそれなりの経験値がないと習得できないのは事実であるため、一朝一夕にWebディレクターにはなれないという結論に至ります。残酷な話ですが、ディレクターをキャリアのロードマップに据えるのであれば、製作物を作り続けてたらいいというわけではないのです。
また、クリエイティブからディレクターに上がるには、競合他社を知っておく必要もあると思います。主観ですが、競合他社がいくらで何のサービスを提供しているのか、説明できる人は非常に少ないでしょう。クリエイターに限った話ではありませんが、ディレクターとしてのキャリアマップを描いているのであれば、競合を知ることは重要です。
顧客を説得する3つの思考回路
ここまでお話してきて「クリエイティブはディレクターには不向きなのか?」と思われるかもしれません。しかし、私はディレクターになりたい人の夢をつぶしたいわけではないです。むしろ叶えてほしいと思っています。では、そうなるにあたって何が必要なのか、個人の経験上、3つの思考回路を身に着けることだと思います。
- 医者
- 易者
- 役者
この3つについて解説します。
医者
ここでいう医者とは、現在抱えている悪いものや改善したい箇所を的確に読み取ることです。当然ですが、相談をしてくる顧客というのは、何かしらの悩みや不安・解決したいなにかがあるわけです。ディレクターになるのであれば、まずは顧客の話をしっかりと聞いて、その問題の根本を言語化するところからスタートすると良いでしょう。そういう意味で「医者」の思考回路が必要なのです。
個人的には、ロジックツリーを用いるのをおすすめします。ロジックツリーとは、特定の問題がどう結びついているのかを可視化し、解決法を発見するためのフレームワークです。この手法を用いることにより、顧客が抱える問題の数だけではなく、幅や深さまで理解できるようになるでしょう。
お客様は、案外自分たちの悩みに対して適切な対処法を選べていません。いうなれば、風邪なのに痛み止めで何とかしようとしている状況です。顧客の抱える悩みを言語化して「つまりこういう問題ですよね?」と整理することで、適切な処置の方法がわかるようになるでしょう。
易者
易者とは、占い師のことです。先の医者のフェーズでお話しただけでは、課題を洗い出しただけです。顧客が欲しいのはその先の解決策だけではなく、それによって得られる成果までがセットになっています。その未来を見せることができるかどうか、Webディレクターの腕の見せ所だと思います。
解決策は多岐にわたる可能性があります。ただ単にコンテンツ制作だけではなく、場合によっては何か別の事業を縮小・廃止してもらわなければならないケースもあるでしょう。医師としてヒアリングを行った際に、悪さをしている部分はどこなのかを見つけ、そしてそれを取り除くことで得られるメリットを論理立てて説明する必要があります。
要するに未来の成功につながるか否か、顧客がその絵を脳内で描けるかどうかが易者の役割です。その絵を最初に描くのはディレクターであり、この思考回路の必要であると個人的には思います。
役者
この文脈でいう役者とは、「自分(とその周辺の人たち)でこれらの問題を解消できる」と見せることです。もちろんこれには確固たる証拠(実績)が必要になる場合も多くあるものですが、ここまでして初めて顧客に納得感を与えることができるでしょう。同時に、その役を完遂するためにはいくら必要なのかも伝える必要があります。要するにクロージングです。
繰り返しになりますが、顧客は相談段階で詳細な悩みを持っているわけではありません。言い換えれば、何をどうすれば課題を解決できるのかが明確になっていない状況です。
医者・易者・役者の例
例を出しましょう。以前、相談があった案件です。その方は営業用のLPを作りたいというデザイナーからの紹介で出会ったお客様でした。LPを作る想定で話をしていたものの、いろいろとLPでなければならない理由がなくなり、最終的には「パワポで営業資料作りましょう」という話に落ち着きました。その際に「資料作成のために今の資料全部ください」と言って、作り直した記憶があります。そして出来上がったものを元にレクチャー動画を撮影してスライドと一緒に納品。今は全営業マンが営業できるようになっています。
つまるところ、この顧客は「営業資料がほしい」のではなく「営業資料を使って均一の営業ができるようになりたい」だったわけです。LPである必要性は微塵もありませんでした。おまけに、資料を作るということは、それを使用する人がいるということ。ここまで気が付いて初めて制作とその先のフェーズに入った事例です。この事実は、すべて先方に伝えました。これくらいの役者ぶりは必要なのではないかなと思うわけです。
Webディレクターを甘く見てはいけない
ライターをはじめとするクリエイティブにとって、人の上に立つディレクターというポジションは魅力的に映るかもしれません。しかし、実際にはクリエイティブとは別の思考回路やスキルが必要で、学んでどうこうなるものではないのです。過去に「Webディレクター養成講座」なるものの広告を見かけたことがありますが、なにをどう教えているのか、非常に気になるところです。
もちろん、インハウスのディレクターであればここまでのスキルはいらないでしょう。ですが、どうもフリーランスのWebディレクターを勘違いしている人も多いのではないかと考え、この記事を書くに至りました。これからのキャリアを考えているクリエイターの皆さまの、何らかの助けになれば幸いです。